FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第119話 変則材端の話 その3
                - 剛域設定の舞台裏

本エッセイ第65話で、ラーメン構造の格点部の問題点を言及してきた。そこでは、オフセット機能という手段を使った格点部問題点の回避策-回避といえば聞こえがいいが、実際は一種の諦めの姿なのだが-も紹介しておいた。

オフセット機能というのは、実は構造の一部に剛体変形を導入する機能と言ってもいいものなのである。ラーメン格点部での利用は、梁材、柱材の結合点である格点領域は、剛性が一段と大きくなる構造になるのが実際であるゆえ、その構造領域を剛体と仮定するためのものである。これを、剛域の設定といい、梁材の立場からすれば、特殊な材端設定となるのだが、この場合は、前二つの変則材端での処理とは違った形となる。

ここでは、平面梁要素を話の材料にして剛域考慮のテクニックを解説してみる。まず、図1を見ていただきたい。

図1 剛域設定の梁要素

図1 剛域設定の梁要素

図1は、元々長さLの梁要素(I-J)の左端がIであり、スケルトン図では、柱要素との接合点がIとなるが、実際の構造を考慮して、I´点に後退させた様子を示している(右端側はノーマルな材端のままであるとしておく)。このとき、既に求まっている梁要素(I-J)の剛性マトリックスはそのままでは使用できないことは容易に想像がつくであろう。梁軸方向の距離ξだけ縮めた梁要素(I´-J)の剛性マトリックスを再度求めることは簡単なことであるが、問題は、その要素をいかにI点につなげるかというノウハウである。

ここで、I点の水平変位、鉛直変位、回転変位をそれぞれUA、VA、θAとし、また、I´点のそれらをUB、VB、θBとすると、下の関係式が成り立つことになる。

式(1)は、両点の動きが剛体変形の状態から出てくる関係式であり、この関係式の内容に首を傾げる方は、本エッセイ第38話冒頭部分を是非再読願いたい。なお、同38話とは、回転周りの方向が逆であることと、棒軸方向変位が追加されていることの違いがあることには注意してほしい。

さらに、両点に働く軸力、せん断力、曲げモーメントをそれぞれN、S、Mと名付けると、やはり38話から両者の力の関係が次のように出てくることも理解できるはずである。

ここまでくれば、38話を最後まで再読された方は、これから先の展開の見透しを察知されたのではなかろうか。そう、FEM の世界では定番の変換処理である合同変換が待ち受けているのである。

今、材端の剛域処理を説明するため、式の簡素化を図って梁要素の左端を取り出して、変換マトリックスTLを導き出した。同様のことを右端で考えると、やはり変換マトリックスTRと言ったものが出てくる。この両マトリックスを式(3)のように合成し改めて、変換対象マトリックスTと名付ける。

ここで、両端で剛域存在の可能性を考慮してスパンが短縮化された梁要素の剛性マトリックスをとするならば、その要素を格点に接合するための剛性マトリックスKが次のように準備されることになる(第38話参照)。

話はここで終わらない。以上は、梁材端の剛域がテーマということで棒軸方向だけに注目してきたが、剛体変形の部分的導入に関する2 点は何も棒軸方向だけとは限らない。横方向すなわち棒軸直角方向の2 点のオフセット機能も当然ある。通常、汎用型のFEM コードでは、特に剛域だけを特別扱いせず、3 次元のオフセット機能の中の一機能とみなしている。そこで、せっかくだから、横方向のオフセット機能のことも追記しておく。梁構造の途中で断面が変化する階段状変断面梁がその代表例である。

図2 階段状変断面梁の結合部

図2 階段状変断面梁の結合部

通常、梁要素の剛性マトリックスは断面が一定であることを前提に断面の図心位置に関する剛性定数で構成されている。したがって、階段状変断面梁と言っても、隣接要素の図心軸が一致している場合では何ら問題はない。問題があるのは、図2 にあるような図心軸がずれる場合の隣接要素である。左の梁要素では、A-A ラインで剛性マトリックスが作成されており、一方、右の梁要素では、B-B ラインで剛性マトリックスが作成されている。このままでは、両要素の接合部で、共通する節点がなくて力の平衡式が取れなくなる。ここで、登場するのが、やはり先の剛体変形の導入による剛性マトリックスの合同変換処理である。この場合は、ラーメン構造の隅角部のような格点がないので、A またはB のどちらかに片方の要素剛性マトリックスを対象に合同変換を施すことになる。

ここで、剛体変形?と疑問が残る方がおられるかもしれないが、梁理論の大前提である断面保持の仮定を思い出してほしい。この仮定の実体は剛体変形なのである。図2のηは、図1のξと同じ役目を果たしている訳である。

 

最後に、読者には少し悩ませることになるかもしれない話をして終わりとしよう。図2の問題では、片方の要素の図心位置に剛性マトリックスを変換するオフセット機能を記述したが、実は、これは絶対的手段ではない。任意の位置にスケルトンラインを設けて、その上にある節点に関する剛性マトリックスに変換処理することも別に構わないのである。この場合は、両要素とも変換対象となる。こうなると、フレーム構造での図心軸や中立軸の概念とは一体何なのか、という疑問も湧いてくるが、このテーマについては、次回に譲ることにしたい。

2017年11月記

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