FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第118話 変則材端の話 その2
                - バネ結合の舞台裏

前回のピン結合ように伝達力がゼロという極端なことではないが、さりとて剛結合ではオーバーな結合になるというケースでは、材端にバネを付設して、そのバネを介してフレーム構造の格点に接合する材端モデルが考えられる。建築方面では、この材端モデルが比較的よく要求されているはずである。

 

ピン結合の場合と同じく要素端にバネを持つ梁要素の場合も最終的にはその剛性マトリックスを求めれば問題解決となる。この解決へのアプローチは、物理的な考察から始めることも考えられるが、むしろ数理的に処理した方が理解し易いのではないかと思う。そこで、ここではやや形式的になってしまうが、FEMの筆法で進めることにする。

まず前回同様、話を簡単にするため仮想要素を想定する。ここでは両端iとjで1自由度を持つ線要素を考え、i端の方にバネが付設していると考える。j端の方は通常の要素端である。さらに説明の都合上、i端が接合する格点の節点番号をIという具合に大文字表記して話を進める。本来、i=Iであるが、この位置にバネが存在すると考えるため、一旦は区別して考えるのである。もちろん、iとIの間の距離はゼロである。そして、このiとIの間にバネが挿入されていると考える訳である(図1)。

図1 端部にバネを持つ仮想要素

図1 端部にバネを持つ仮想要素

図1の通り、格点Iと要素右端の節点jの間にはバネ要素と線要素の2要素が存在していると考える。この両要素の要素剛性方程式は周知の知識で難なく準備できる。仮想要素の方は、平面トラス要素の既定情報を引用してくればいい。ここでは、それを式(1)のように表記しておく。

念のために言っておくが、トラス要素の情報を引用すると言っても、別に本仮想要素はトラス要素に特定しているわけではなく、1節点1自由度の共通点からトラス要素の知識を転用しているだけなので、剛性マトリックス内の各項は、トラス要素のそれらとは限らない-もちろん梁要素の軸方向のみの変形力学を対象とする場合はトラス要素の剛性マトリックスに一致する。

一方、バネ要素の方も2自由度間の変形力学を扱うものだから、こちらもトラス要素の剛性方程式が引用できる。それゆえ要素剛性方程式は、式(1)と同形式となるが、こちらはバネであるという点を強調するため、バネ定数をSと定義して剛性マトリックスを具体的に表記すると下式となる。

式(1)や式(2)の引用に曖昧さが残る読者は、一度FEM参考書を閲覧願いたい。初級者向けに解説しているどんなFEM書籍にも掲載されている式だと思う。なお、両式内の節点iの節点力Fiを色分けしているのは、両要素からの寄与力を区別するためのものである。

 

次にやることは、式(1)と式(2)の統合である。統合と言えば、難しく考えるかもしれないが、要はFEMソルバーの定番処理である要素剛性マトリックスの全体剛性マトリックスへのアセンブル処理である。それを仮想要素とバネ要素の2要素で実行しようというのである。要素剛性マトリックスのアセンブル処理というのは、換言すれば各節点での力の釣り合い式を求めることである。今回の場合、明確に接続要素が分かっているのが節点iだけなので、実際の平衡式が求まるのが、その節点iだけなので、他の節点の式についてはそのままにしておけばいい。そうするとアセンブルの結果、次式が求まることになる。

式(1)、式(2)から式(3)への過程は、よく納得していただきたい。くどいようだが、式(3)の3行目の式だけが力の釣り合いをいっているのであって、後の二行は、単に行列のサイズが大きくなったので表現が変わっただけであることを理解願いたい。式(3)左辺第3項がゼロとなるのは、節点i に関わる力は、両要素から寄与される節点力だけであり、当該節点はそれで力学的平衡を保つことを示している。

さて、式(3)をこのままにしておくと、本来I=i であるから、同位置で2重節点が発生していることになり、プログラム処理上はなはだ都合が悪い。そこで式(3)の要素剛性方程式から、Iかiのどちらかを消していきたい。他の要素とのことを考えると、当然格点を表記しているIの方こそ残してiを消したい。ここで登場するテクニックが、前回同様、連立方程式の解法の一つである掃き出し法である。今の場合、剛性マトリックスの第(3,3)項をピボットに選択して、第3列の非対角項をゼロ化していくのである。その結果が次の式である。

上式の3行目は、もしバネの伸び縮み量を知りたい時には必要な式となるが、通常のFEM定式化の過程では不要となる式なので、切り捨ててもいいことになる。ここまでくればIをiに書き換えることにより、i端側にバネを持つ線要素(i-j)の要素剛性マトリックスが次のように求まることになる。

以上は、並進変位に関係するバネ一つを想定した要素剛性マトリックスを作成する舞台裏を案内してきたが、バネが回転バネであっても全く同じ手順である。但し、実際問題としては、バネが一つとは限らない上に、梁要素が持つ6自由度(両端では12自由度)のうちのどの自由度にバネが関係してもいいように定式化することは必要である-式(1)で3D梁要素の剛性方程式が必要となる。複数バネがあっても、複数バネ対応の式(3)を作成し、該当する対角項をピボット選択して非対角項の掃き出し処理を繰り返せば済む話である。

 

前回、今回ときて、ピン材端の場合も、バネ材端の場合もその対策法で、掃き出し法という連立方程式の解法テクニックが重要なキーとなっていることに読者は気づかれたと思う。しかし、これには一つの前提があることを忘れてはいけない。実際に、上の式(4)を誘導された読者では、気づかれたと思うが、掃き出し法が有効だったのは、実に式(4)の第3行目の左辺がゼロであることなのである。掃き出し法は、もちろん連立方程式の解法であるから、当然既知ベクトル(荷重ベクトル)の方も、掃き出し過程で計算対象となってくる。もし、3行目左辺が非ゼロ値であれば、2行目、3行目にあるFI、Fjも更新されていくことになり、それでは節点力の体をなさなくなり、後続のアセンブリ処理に支障をきたすことになる。連立方程式でいう所の既知ベクトル内の項のうち、ピボット選択した対角項に相応する項がゼロであるというのがミソだった訳である。

2017年10月記

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