FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第117話 変則材端の話 その1
                - ピン結合の舞台裏

構造力学の応用部門で登場する連続梁やラーメン構造では、隣接する梁材の結合は剛結合が標準とされている。すなわち、格点部に接合される各部材の変形前の相対的幾何関係は、変形後も保持されるのを前提としている。直角に交差していた2部材は、変形後もその交差角は変わらずやはり直角のままである。

ところが、実際の構造設計の現場では、変形の連続性を破ったり、材端と格点の位置をずらすといった変則的な材端条件が要求されることがしばしばである。そこで、これから3回に分けて、このテーマに沿った話とそれを実現化するFEMプログラムの舞台裏をご案内したいと思う。初回は、ピン結合材端条件の問題である。

 

“ゲルバー梁”と聞けば、昔懐かしい構造力学の教科書内にあったことを思い出す方も多いのではなかろうか。

図1 ゲルバー梁

図1 ゲルバー梁

ゲルバー梁のように梁材の途中をピン(ヒンジ)結合して、その位置での曲げモーメントをゼロとする力学条件は、FEMのような離散型数値解析では、当該位置を節点に持つ標準の梁要素に変更を施して実現することになる。標準の梁要素のままでは、隣接要素と剛接合となってしまうので、材端モーメントがゼロになるように要素剛性マトリックスを変更するのである。当然この場合、隣接要素間で、撓み角が不連続となる。

上のことを実現するため、通常のFEM ソルバーでは、当該要素の材端条件設定のインプット仕様が用意されているから、ユーザーはそれを指示するだけでよい。しかし、ピン結合には、注意する点があり、それを知らずに乱発していると、落とし穴に陥ることにもなる。材端ピン結合を持つ梁要素の剛性マトリックスの形をイメージして使う必要があるということだ1 。FEM の初心者、初級者の方々は、以下、耳をそばだてて聞いてほしい。

まず、初心者が犯すかもしれないミスとして、下図に2例あげる。

図2 拙いピン結合設定

図2 拙いピン結合設定

いずれも余計な設定をしたがゆえのミスである。上図左は、片持梁先端が自由端で曲げモーメントが当然ゼロだからと思って、余計な設定をしてしまったケースである。同右の例は、図1 のゲルバー梁のピン結合されている左右の梁要素を取り出したもので、ピン結合される左右両要素の材端にピン結合設定したケースである。両モデルのデータでFEM ソルバーを実行してもおそらくNGの結果となるだろう。この理由を解き明かすには、話の展開材料に梁の要素剛性マトリックスが必要となる。しかし仮に、平面梁を採用するにしても、周知の通り6×6 の要素剛性マトリックスであり、それを使っても式が煩雑になってしまうので、ここでは、架空の3×3 の剛性マトリックスで代替したい。それでも、なんら話の本質を外れることはない。

その仮想要素の要素剛性マトリックスと等価節点力の関係式(いわゆる剛性方程式)が次式のようであったとする。

今、式(1)の右辺にある第2 行目の を材端モーメントとみなしてゼロとする。この操作が、実にピン結合での材端モーメントをゼロにすることに相当するのである。すると、式(1)の第2 行から、変数 が消去できることになるが、その手順は、マトリックス表示が苦手という方もおられるだろうから、おなじみの3元連立方程式の代数的表現に変えて展開してみる。

式(2)第2 式から、

となる。

次に、式(3)を式(2)の第1 式と第3 式に代入して、少し整理すると下のようになる。

これで、F2=0とした、すなわち材端モーメントをゼロ設定した式を抜いた2元連立方程式ができたことになる。もちろん、左辺の係数部分が縮退化された剛性マトリックスに相当することになる。

この要素剛性マトリックスを全体剛性マトリックスにもっていくというアルゴリズムも考えられる。しかし、今の場合、一つの材端モーメントであったが、実務の場面では、材端で不連続とさせたい自由度が複数あり得ることもあり、その組み合わせにもヴァリエーションがある。それを考えると、その都度、要素剛性マトリックスの大きさを変えてアセンブリ処理することは、プログラムが煩雑となり得策ではない。一般に、FEM プログラムでは、剛性マトリックスのサイズを変えてしまうアルゴリズムは極力避けなければいけない。どの局面でも、統一的で汎用的なアルゴリズムが望まれるところである。

そこで、式(4)の場合を、消去された変数 を戻した形で、再度、マトリックス表示してみる。

勘のいい読者は、気づかれたかもしれないが、式(5)は、係数マトリックスの第2 行第2 列の対角項を枢軸(ピボット)にして、当該列をゼロにしていく連立方程式の解式法の一つ、掃き出し法(SWEEP OUT 法、別名ガウス・ジョルダン法)の過程を示しているのである。ということは、ピン結合のように、ゼロとすべき材端条件のプログラム上のアルゴリズムには、掃き出し法を転用すればいいということになるのである。なお、赤字で示した対角項だけは、実際の掃き出し法と違って、今の場合、強制的にゼロと設定すべきものである。さもないと、全体剛性マトリックスになんらかの数値が加算されることになり不都合となるからである2

結局、式(1)を掃き出し法のアルゴリズムを利用して変更した式(5)の要素剛性マトリックスを全体剛性マトリックスに加えればいいということになる。

さて、先に示したFEM 初心者のデータミスでソルバーがNG メッセージを出す理由であるが、これらの例では、ピン結合節点になんら曲げ剛性が存在しないことになるからである。すなわち、式(5)のような対角項=0 の形の要素剛性マトリックスが全体剛性マトリックスにアセンブルされる一方、そのゼロ項に加算される他の要素からの寄与項が存在しないことで、全体剛性マトリックスの対角項がゼロとなってしまうからである。図3 左の場合は、有効なピン結合であっても、右のモデルでは、無駄なピン設定をしたことがあだとなってソルバーがストップする由縁である。もちろん、この場合は、元のままで材端モーメントがゼロとなる。

図1 のゲルバー梁に戻れば、左右どちらかの梁要素の材端でピン結合指定しておけば済むことで、そのとき相方要素の材端の曲げ剛性が残ることになるので問題無しとなるのである。

図3 ピン結合指定の良し悪し

図3 ピン結合指定の良し悪し

2017年9月記

  1. ここでは、材端モーメントを対象に話を限定しているが、なにも回転自由度に限る話ではなく、材端せん断力等の並進自由度も共通の話である。 []
  2. 厳密的なことを言えば、第2 行の非対角項のゼロも、(2,2)をピボットにした掃き出し処理では出てこない。それで、2 行全体を強制的にゼロにすることになる。 []

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