FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第64話 主応力計算のディレンマ

離散化モデルでの辛いところは、知りたい物理量の求める場所を自由に選択できない点である。有限要素法(FEM)での応力値もこの例外ではない。各要素での応力値は通常、ガウスの数値積分点で求まっている。ポストプロセッサーのない時代では、FEMソルバーが出力する積分点位置での応力値をそのまま評価するしかなかっただろうが、各種の図化表示で応力評価するようになってからは、元のデータに外挿、内挿計算を施すという、一種のデータ加工が必要となる。このとき、節点位置での応力値が基準とされることになる。この際の外挿計算については、既に本エッセイ47話で紹介した通りである。

ここで、一つ例をあげる。図64-1は斜め支持の、あるスラブ構造のモデルである。

図64-1 斜め支持スラブのFEMモデル(鳥瞰図と平面図)

図64-1 斜め支持スラブのFEMモデル(鳥瞰図と平面図)

図64-2 横断面の応力

図64-2 横断面の応力

図64-2は図64-1で示した切断面ラインでの横断面上の応力図を描いたものである。応力を表示している位置は各要素切断面の中心である。こういう場合の計算手順はいろいろ考えられるだろうが、標準的には次の通りとなるであろう。

図64-3 要素切断面とその面上の応力計算

図64-3 要素切断面とその面上の応力計算

元の応力値からリクエスト点での応力値を求めるのに計算を結構することが分っていただけるだろうか。

ところで、あえて伏せていたが、図64-2の応力図というのは、実は主応力図である。この主応力の計算では、ちょっと悩むことがある。通常、FEMソルバーは応力値を参照座標系6成分(2次元では3成分でも可)で出力する。このとき、同時に主応力情報も出力しているソルバーもあるだろうが、ポストプロセッサーのない時代ならともかく、ただでさえ膨大なデータ量となる応力情報のこと、ポスト側で処理可能な物理量をソルバーが出力して巨大ファイル化することは良策ではない。そんなことで、主応力の値をユーザーが求める場合、たいていはポストプロセッサー側で計算負担しているはずだ。

主応力の計算そのものは別段問題ないが、内外挿の計算時の手順選択に悩むことになる。図64-3にあるフロー図の最初、積分点位置での応力値から節点位置での主応力を求める外挿計算で考えてみよう。二つの方法がある。

一つは、まず積分点位置での応力値6成分から主応力を求めておいてから、その主応力を節点位置まで外挿計算する方法である。もう一つは、応力値6成分を先に節点位置まで外挿計算しておいてから、節点位置での応力値6成分から主応力を求める方法である。

もちろん、当該節点に接続する要素間で応力値は食い違っているので(通常、使用されているFEMは変位型ゆえ)、各節点において前者は主応力を要素間で平均処理を、後者は応力値6成分を平均処理した後に主応力を求める必要がある。

直観的には、前者の方が良さそうに思えるが、こちらには重大な欠点がある。主応力情報のうち、主平面の情報までは外挿計算できないからである。これでは、最大主応力、最小主応力の方向が不明となるわけである。したがって、図64-2でのような主応力図は描けなくなる。数学的な背景を言えば応力値6成分からは固有値計算により主応力値(固有値)と主平面方向(固有ベクトル)が求まるが、固有ベクトルの情報が欠けた状態で固有値のみの情報から応力値6成分は再現できないことである。

以上の理由ゆえ、FEMポストプロセッサーにおいては、後者の方法を採用せざるを得ないのであるが、気になるのは両者での結果の違いである。下の数値は、図64-1のモデル内のある要素に関して、両者の方法で要素中心位置での主応力値を求めたものである。

この場合は、割と一致している方である。要素内で応力の変化が激しい場合は、両者に差が出てくることが予想される。精度を重視するとなると、やはり積分点位置で主応力を求め、さらにその位置で主応力図を描くのが理想だが、2次元問題ならともかく、3次元問題ではとても実用に耐えるものでないことは読者諸氏にはお分かりいただけるだろう。

2009年梅雨の候記

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