第47話 応力外挿の話
昔の有限要素法の教科書にあった三角形要素、長方形要素のように剛性マトリックス内の各成分に現れる積分計算を解析的に処理できるケースは別にして、現在の有限要素法の主流となったアイソパラメトリック系要素の剛性マトリックス生成には一般に数値積分が使用される。数値積分のテーマは随分前に話したので(第5、6話)、ここでは重複説明を避けるが、ともかく、この場合は応力値が積分点で評価される。
ところが、積分点というのは要素内部にあるものだから、有限要素法ユーザ自身もそうだが、ポストプロセッサの立場でも何かと不都合なことが多い。どんな点が不都合かと言えば、次の点である。
ユーザの立場からは
- 通常、応力値が高いのは構造物の表面であるから、値を表面で見たい。
- 2次元問題ではともかく、3次元問題では内部で値が出力/表示されるため、実際上、各数値が判別し難い。
ポストプロセッサの立場からは
- コンター図、カラーマップ図のように、隣接要素間で連続的に応力値を評価する場合、統一的な基準点での値が必要となる。積分点での値のままでは不適当である。
こんなことから、応力値を節点位置で求めたいという要望が出てくる。それでは、有限要素法計算(ソルバー)の段階で節点位置の応力を出力すれば、という意見が出るかもしれない。しかし、事はそう単純ではない。応力精度が一番いい出力位置は、という問題も含めて、実はそう簡単な問題ではないのである。安直に節点位置で応力値を出すと、不都合な現象があるという例が Zienkiewicz の教科書に出ているので参考にされたし。
ここでは、ソルバーで出された積分点位置での応力値をポストプロセッサで節点位置に外挿計算するときの話をしたい。
要素内部にある値をもって要素表面で見るとなれば、これは外挿計算に頼るしかない。しかし、要素タイプにより節点数もいろいろ、積分点数もいろいろと2つともが可変的なので、その外挿計算も、どんな場合にも絶対確実というものがない。節点数と積分点数の違いにより、下の3つの方法に分かれる(ここでは節点数を N、積分点数を G と表記する)。
- N=G の場合
- N>G の場合
- N<G の場合
数から言えば、圧倒的に2のタイプが多い。三角系要素タイプの場合はすべてこのタイプとなっている。一方、四角系要素タイプでは、低次要素が1のタイプ、高次要素が3のタイプとなる。ただし、低減積分法が採用された高次要素ではタイプ2となってしまう。
いま、全積分点で求まっている応力値をまとめてベクトル表記し、それを SG とし、節点位置での応力値を同じくベクトル表記して SN とすると、要素剛性マトリックスの定式化で使用されている補間関数を利用して次の関係式が求まる。
ここで、A は補間関数に積分点の位置を代入して求まる G 行、N 列の係数マトリックスである。
問題はこの線形関係式の右辺にある SN が未知数であることだ。次に、タイプ毎に言及してみよう。
[N=G の場合]
外挿処理にとっては一番納得のいくケースで、例えば、図47-1のような要素のときである。このときは一意的に節点での応力値が求まる。A が正方マトリックスとなることから逆マトリックスを計算することができ、SN が容易に計算できる。すなわち、SN=A-1SG。
[N>G の場合]
この場合は、先の線形関係式 SG=ASN が解式不能形となってしまい、スマートな数学的処理は不可能となる。各要素でなんらかの工学的近似手段を取らざるを得ない。
典型的なのが平面問題での3節点三角形要素である。この場合はある意味、幸運と言えるかもしれない。この要素では、積分点というよりも要素中心の1点でしか応力値は出力されない。言うまでもないが、もともと一定歪要素だから、どの位置で応力値を求めても値は一緒である。それゆえ、外挿計算で悩むこともない。手段はただ1つ、要素中心での値をそのまま節点値とすることしか選択肢はない。このケースは3次元での4節点四面体要素も同様である。手段選択に悩むのは、これ以外の三角系要素タイプの場合である。
例えば、図47-3にある6節点三角形要素を考えると、この要素は通常、積分点数は3であるため手段選択に悩んでしまう。
ちょっと考えるだけでも次のような手段がある。
- まず、頂点の3点だけを考え、A(3×3)の逆マトリックスからその位置の応力値を求め、中間節点での値は両頂点の平均値として求める。
- 高次要素というのは中間点の影響が大きいという立場から、上とは逆に A(3×3)を利用してまず、中間点の値を求め、その辺上は一定値とみなす。そして、頂点の値を平均化する。
- 頂点の値は最初の考えで求めるが、中間節点での値は、積分点の値を平均して求めた要素中心と各積分点での値を直線補間(もちろん外挿)して求める。
極論すれば、使用者の好みで決定されてしまう N>G タイプである。
[N<G の場合]
情報が多すぎて処置に困ってしまうというのがこのタイプである。セレンディピティー型高次要素では節点数が1次元的に増加するのに対して、積分点数は2(3)次元的に増えるので、どうしても N<G となる。
このタイプの最適な処理方法は最小二乗法を利用することだ。すなわち、積分点位置で求まっている応力値を観測値とみなすのである。このとき、“当てはめ曲線”は有限要素の補間関数を利用する。20節点の六面体要素で3点積分法を採用した場合、実に27点の観測値を得ることになるから、最小二乗法がベスト案と考える。
しかし、図47-4にある平面問題での8節点四角形要素では、G-N=1ということで、わざわざ最小二乗法の登場を願うこともないかもしれない。ど真ん中の情報を断腸の思いで切り捨てると、G=N のタイプとなって好都合という手段もある。
2008年5月 記