FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第14話 コンピュータ変遷

筆者は、比較的古くからコンピュータに接してきたので、これまでにたくさんの種類のコンピュータを経験することができた。国産3大メーカーの汎用機を皮切りに2種類の OS の IBMマシン、旧電電公社の DEMOS-E、DEC の VAX、APPOLO とSUN の両 UNIX マシン、そして現在の Windows パソコンである。仕事柄、MS-DOS 時代のパソコンは知らないできた。

数々の思い出が記憶にある。学生時代に利用した汎用機は、たった22元の連立方程式を解くのに20分もかかった。東大、京大にあった大型計算機を利用するため、重いパンチカードを持って出向いたこともある。京大の時は大阪から朝早く、バス-環状線-阪急電車-バスと乗り継ぎ、計算センターへ急ぎ駆けつけて、バッチジョブを実行したところ、たった1つの“I”を“1”と間違うパンチミスで、その日は万事休すということもあった。

でも一番懐かしく思うのは、VAX750で大規模な有限要素解析を実行したときである。6000以上の梁要素からなるフレーム構造物の解析であった。断面特性の種類が多くて、入力チェックするのに1月近くかかった代物である。

当時、私の周りには、そんな大きな計算をするには1MIPSにも満たないスーパーミニコンしかなかった。ディスクだけではワークファイル用のスペースが足りず、磁気テープまで割り当てて強引に実行したところ、32時間かかって終了した。完了した時は感動ものだった。

人に、「どのコンピュータが一番よかったですか」と聞かれれば、筆者は即座に DEC のVAX と答えるだろう。厳密に言えばハードではなく、OS の VMS のことである。あれほど、機能が豊富で、使いやすくて、安定した OS を筆者は他に知らない。動作の安定しない今のパソコンに比べると雲泥の差である。OS(UNIX)を生んだ OS だけのことはある。

DEC が汎用機時代からの流れに乗ったビジネス戦略を取ったため、オープン化の時代に淘汰されてしまった。あんなにいいソフトウェアが無くなるなんて、ほんとうに惜しいことである。

コンピュータの世界はいいものが生き残るのではなく、ビジネス優先で決まってしまう多くの事例をわれわれは見てきているが、VAX の消滅はその一例であった。

2001年10月 記

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