FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第15話 力学哀話

筆者の手元には昔、さる有名大学の先生方が執筆された3巻からなる構造力学の教科書がある。その3巻の序文には次のようなことが書かれている(趣旨を変えない範囲で少し文章を簡略化している)。

「これからの時代、大学卒業者としては骨組構造の力学のみでは不十分であり、弾性学、シャイベ、板、シェルなどの基礎知識も必要と思われる」これが書かれたのは1970年である。はたして、この30年の間にその流れになったであろうか。答えは残念ながら NO であろう。情勢はむしろ逆行しているように思われる。

建設系分野でもメカ系分野でも、数学のトレーニングが必要となる力学のような学問は人気がなく、感性で勝負する方面に流れているようである。建築力学よりも建築デザインが、材料力学よりもロボット工学というわけである。

昨今の学生気質には、社会的騒動ともなっている理数系の学力低下問題が密接に関連していると思われる。高校時代に生物学を学習しないで医学部に入学している大学生がいるということで、日本の大学受験教育のゆがみをジャーナリストの立花隆氏が指摘して話題になったことが記憶に新しい。この現象は物理系の世界に置き換えても同じことであろう。

もっとも、わが応用力学の分野では1つの誤解もある。有限要素法の市販コードが多く流通し、有限要素法がかなり大衆化したおかげで、設計者層の中には、有限要素法の基礎理論は完成しており、解の信頼性は高いと思っている人が散見される。これは危険なことである。確かに、そういう面を持っているのも事実だが、それは一面を言っているに過ぎない。むしろ、有限要素法はあくまでも数値解析法の1つという考えでとらえる方が無難である。

要素の数、要素の形状、要素の性質に依存するのが現在の有限要素法である。連続体の構造に有限要素法を適用した場合、人により解も違ってくることもある。だから、有限要素法のユーザには弾性学、板理論等の基礎知識は必要と思われる。

2001年11月記

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