FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第85話 ある関数の点景・余話

軸対称シェル構造の問題の一例を前回の円筒タンクでみた。荷重条件、拘束条件が回転軸対称であるならば、図1のような各種の軸対称構造の問題も解決できるが、さすがに理論的に解ける問題は限られている。そこで、有限要素法の登場となるが、要素は軸対称シェル要素を使用する。

図1 各種の軸対称シェル構造

図1 各種の軸対称シェル構造

しかし、軸対称シェル構造の解析も一般のシェル構造物の解析同様、経験を積んだユーザーの使用でないと問題点を残すことがある。そのことを言及する前に、再度、前回出てきた水圧を受ける薄肉円筒タンクの問題を考えてみる。まず下図の例題を一つ計算してみる。図にある諸元で前回の式(2)ないしは式(3)の計算をすれば、曲げモーメントMzもモードが図3のようになる。

図2 円筒タンクの例題

図2 円筒タンクの例題

図3 曲げモーメントMzの分布モード

図3 曲げモーメントMzの分布モード

この問題では、曲げモーメントMzは固定端での最大値から、かなり急な応力勾配で値の正負が反転し、後は急速に減衰していく。いわゆる、局部的な応力場問題を扱うことになるのだ。局部的に応力が大きくなる応力場の問題に有限要素法を利用する場合、メッシュ分割に注意が必要である。

筆者の手元に、ホランド/ベル著の“有限要素法-応力解析への応用(朝倉書店)”という有限要素解析の参考書がある。出版時期が昭和47年というから、随分と古い書籍だが、当時、有限要素法関係の書籍がまだ少なかった時代だから、日本では貴重な本の一冊であった。実は、図2の例題は、この本から引用したものである。

図4 軸対称シェル要素モデル

図4 軸対称シェル要素モデル

ところで、この本には、この問題に有限要素法を適用した結果が理論解とともに掲載されているのだが、なんと使用要素がたったの6要素なのだ(図4)。

結果を紹介すると、下部固定端での最大曲げモーメントMmaxが下のようになっている。

■理論解 : Mmax = -1,690kgcm/cm
■FEM解 : Mmax = -1,690kgcm/cm

すなわち、6要素モデルで理論解に一致すると言っているのだ。ところが、これが大嘘なのである。局部的に応力がピークになるような応力場の問題をこういうラフな要素分割でうまく有限要素解析が機能するわけがない。本では、このサンプル計算を1956年の文献より引用しているという記述もあるが、当時のプアな計算機環境が背景にある由縁かもしれない。

応力勾配がきつい場所では要素密度を大きくする必要がある。図4のFEMモデルでは、図3からすぐ分かる通り、最大値から符号が反転した極値まで急激に変化する応力場を1要素で適用しようとするもので、これには無理がある。

表1は筆者が、図4のモデルからスタートして、各要素を階層的に2分割して要素数を増加していった場合をFEM解析した結果である。

表1 図4モデルの計算結果

表1 図4モデルの計算結果

このような応力場の問題にFEMを適用する場合、ちょっとメッシュ分割に苦労する点は本エッセイのところどころで話している。実は軸対称シェル構造物だけでなく、一般にシェル構造物では、局部的に応力が大きくなる問題が多くみられることであり、FEM初級ユーザーが安易にモデル作成をすることは出来ないものである。

 

以下は、FEMによる軸対称シェル構造解析の余談である。

85-a

前回から軸対称荷重が作用する問題に限って話してきたが、非対称の荷重が掛かる問題では、軸対称シェル要素が使えないのかといえば、そういうわけではない。ただし、この場合、円周方向の変位や荷重をフーリエ級数で解が収束する項数まで展開する必要がある。FEMの発展段階の一時期、橋梁のような細長い構造物を対象に有限帯板法(Finite Strip Method略してFSM)と呼ばれた解析法があったが、これも類似の手法である。

直交関数であるフーリエ級数を利用するので、剛性マトリックス内で項数mと項数nの連成項が消えて、単に級数項mに関係する剛性マトリックスを独立に解くことが可能で、後は重ね合わせるだけという手順になる。それゆえ、FEMの大きな課題の一つである大規模剛性マトリックスの解法が避けられ、コンピュータメモリの節約や計算時間の節約というメリットがあった。

しかし、単純ではない荷重設定や応力評価での柔軟性を考慮すると、線モデルあるいは平面モデルでの表現では問題もあり、やはり構造物全体をモデリングするアプローチの方に軍杯があがるのではないだろうか。メモリや計算コストの面でのメリットももはや昔の話で、近年のコンピューター環境を考えると、その有利さも全く影に隠れた感じがする。軸対称シェル要素を使う構造モデリングのよさは、やはり軸対称荷重の場合だと思う。これ、筆者の独断であるが。

2013年5月記

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