FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第84話 ある関数の点景・その2

前回の問題はお分かりいただけただろうか。構造モデルAは、言うまでもなく片持ち梁の解析である。一方Bの方は薄肉タンクを軸対称シェルモデルで解析した結果である。右側の載荷は水圧荷重を表していた。このような構造下部で孕む変形モードは地盤の切土解析でもみられる。

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前回は、減衰型周期関数が出てくる力学問題として、減衰単振動と弾性床上梁の問題2つを挙げたが、ここではもう一つの例として水圧の掛かる薄肉タンクの問題を話してみたい。

タンクのような回転軸に対して、対称性の構造を持ち、拘束条件も荷重条件も回転対称である問題を考える場合、構造を回転軸を通る鉛直面で切断した時の切断ラインの力学挙動を考察対象するだけで済むことになる。有限要素法の場合、軸対称シェル要素という要素タイプを使用することになる。この要素は、数ある要素タイプの中で、ユーザーにとっては一番簡単な要素タイプの一つと言えるだろうか。

さて、以下は、軸対称シェル構造問題の中で一番実用的問題である水圧が掛かる問題をまな板に上げてみる。図1を参考にして、この場合の基礎平衡方程式は次のようになっている。

ここに、Dは板やシェル構造でよく定義されている曲げ剛性と呼ばれている係数であり、βは軸対称シェル構造独特のパラメータで、それぞれ次の式で表される。また、ρは液体の単位重量を示している。

 

図1 薄肉円筒タンクモデル

図1 薄肉円筒タンクモデル

式(1)の解-この解式が前回の最後に示した孕み曲線である-から得られる母線軸方向の曲げモーメントを表すMzは次の通りとなる。なお、式(1)の微分方程式の由来やその解法の詳細について関心のある方は、たとえばティモシェンコの著書1 の中にある円筒シェルの理論を参照いただきたい。

今、関心があるのは、Mzの値そのものではなく、その分布モードにある。上式の前に掛かる係数は構造の定数なので、これとカギ括弧内の三角関数の合成を行った結果出来る定数項とを併せてKと表記すれば下のようになる。

 

 

これで水圧を受ける軸対称シェルタンクでの曲げモーメントMzがやはり減衰型周期関数になることが分かる。それで、この曲げモーメントも前回の第3図で示したような様子の分布状態になることが容易に推測できる。すなわち、下部固定端での曲げモーメントが最大値で、かなり急な応力勾配で反転モーメントに至り、その後は急激に減衰していく。ただし、弾性床上の梁問題と違って三角関数の項がやや複雑になっている。弾性床上の梁問題の場合、正弦関数、余弦関数の前の係数が同一(=1)であったので、曲げモーメントの値が正負に反転する位置が、βx=π/4の所だったが、今回はそうではない。以下、この曲げモーメント反転位置に注目してみる。

図2 正弦関数と余弦関数の交差点

図2 正弦関数と余弦関数の交差点

式(2)を見れば分かる通り、曲げモーメントMzがゼロになる位置は余弦関数と正弦関数がクロスする所である。式(2)のように余弦関数の前に係数がある場合、しかもその係数が1より小さい場合-通常の薄肉タンク構造では、 βh>1- 図2が示すように固定端近くのクロス点が π/4から左にずれることになる。これは何を意味するかといえば、応力勾配がよりきつくなることを意味している。
ここで、興味がわくのは、薄肉タンク構造の諸元で曲げモーメントMzの反転位置(もちろん固定端付近の位置のもの)がどう変わるかということだ。

それで式(2)のカギ括弧内をゼロにする次式を変形して3個の無次元化パラメータを導入して表現すると、式(7)のようになる。

 

今の場合、ポアソン比の値の大小は本質的ではないので、ν=0 として式(7)をグラフ化したものが図3である。

図3 式(7)のグラフ

図3 式(7)のグラフ

このグラフからは、構造物の回転軸からの半径aに対して、高さhが高くなればなるほど、肉厚tが小さくなればなるほど、曲げモーメントMzの反転位置が固定端側に近づき、応力勾配が激しくなることを意味していることが分かる。

最後に、少し遊びの計算をしてみる。タンク構造に似た構造といえば、思い付くのが、缶コーヒーの缶だ。厳密に言えば、蓋もあり、下端も図1のような固定端というわけではないが、そこは遊びなので、堅いことを言わずに、コーヒーが満たされた缶に式(7)の Pzを計算をしてみよう。筆者の手元にあるアルミ缶の寸法を測ってみると次のようだった。

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■半径:a = 25mm
■高さ:h = 100mm
■肉厚:t = 0.1mm (さすがにこの値は測定不能なので、資料より抜粋)

これらの値で計算してみると、 Pz=9.352e-3 となり、これは、下端位置とほとんど変わらない位置で曲げモーメント反転があることになる。工業構造物で、こんな相似形のものがあったら、大変な応力勾配となり、実用に耐えられない物となる。

2013年4月記

  1. 板とシェルの理論、ティモシェンコ・ヴォアノフスキークリーガー共著、長谷川節訳、ブレイン図書出版株式会社 []

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