FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第83話 ある関数の点景・その1

高校生時代の数学の教科書で(もちろん、筆者が若かった頃の話だが)、複合関数の例として、次のような関数が出ていたことを鮮明に覚えている。

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この式をグラフ化すると、下図のように指数関数の方が包絡線の役目をする曲線になり、なぜか印象に残った関数だった。その証拠に、当時、北海道大学の入試問題でこの関数を使った問題があったな、というつまらぬことまで覚えているからだ。

図1 減衰正弦曲線

図1 減衰正弦曲線

高校生段階の筆者にしては、どこか人工的に作成された数学関数としか見ていなかった上の関数に、大学に入学して意外と早く具体的な関数として出会った。教養課程で習う一般力学の中で、減衰を伴う単振動問題を表す振動方程式の解として登場することには、読者の方々も納得されるだろう。

単振動する質点が速さに比例する抵抗を受ける場合の運動方程式は、周知の通り次の式となる(記号は、慣習的に使用されているものを採用しているので、意味は説明なしでもお分かりいただけるかと思う)。

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この有名な2回微分方程式の解は、補助方程式である2次方程式の根が実数を持つか、虚数であるかで劇的な違いを見せるが、重要なのは後者の方であることは、読者の皆さんも先刻ご承知のことと思う。して、その解式はどうかといえば、次の通りである。ただし、解式の方を簡潔に表現するため、元の運動方程式における抵抗係数を c→2mc と置き換えて考えている。

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上式には、角振動数ωがあったり、位相項αがあったりするが、基本的には式(1)と同じである。式(1)では、波長が2πであったのが、式(3)では、自由振動の周期(変数が時間変数) 2π/ωが減衰により伸びることが見て取れる。

 

式(1)のようなタイプの関数は、工学問題でよく出てくる2階定数係数微分方程式あるいは4階定数係数微分方程式の解として登場してくる。各種の数学関数は、微分方程式の解を表現する関数として登場するが、高等関数であるルジャンドル関数、ベッセル関数あるいは楕円関数のように、この初等関数には固有名詞は付けられていない。強いて言えば、減衰型周期関数とも言えるであろうか。

さて、材料力学の問題、特に一番馴染みのある静力学の問題の中で、このタイプの関数を考えてみる。よく知られているように梁の力学挙動は、2階あるいは4階の定数係数微分方程式で表現される。そこで、この微分方程式の中に0階の微分項-式(2)でのkxの項-の存在があればいいわけだ。すぐ思い付くのが、弾性床上にある梁の問題であろう。表現を変えれば、地盤の上に置かれた梁、あるいは、地中の中に埋め込まれた杭の力学問題である。

ここでは、無限長と仮定できる梁の一点に集中荷重が掛かる問題を考えてみる。この時のたわみ曲線を表す微分方程式は下記の式である(図2参照)。

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図2 集中荷重が載る弾性床上の無限長梁

図2 集中荷重が載る弾性床上の無限長梁

式(4)でのEIはもちろん曲げ剛性であり、Kは地盤の反力係数である。Kは式(2)の復元力でのバネ定数と同類のものである。この式を無限長と載荷点左右対称の構造条件と載荷点での境界条件を適用して解くと、曲げモーメントを表す解式が次のように求まる。

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上式の三角関数を合成すれば下の式となる。

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この式もまた、式(3)と同型の式となっている。ただ、1点の違いがあり、実はこの違いが劇的に両者を分けることになるのである。その違いとは、指数関数と三角関数のそれぞれにある独立変数が式(3)では違っているのに対して、式(6)では同じ点である(符号は別にして)。ほとんどの構造物の振動における挙動が、ゆっくりと減衰していくことから分かる通り、式(3)の指数関数にある減衰係数は通常小さい値を持つ。それで、図1のような履歴グラフが得られるわけだ。

一方、式(6)の場合、指数関数の影響が卓越的に勝ってしまい一気に減衰してしまう。1波長も行かないうちに曲げモーメントの値はゼロ近くとなってしまう。この様子を示すのが、下図に示した式(6)のグラフである。ただし、前に掛かる定数は無視している。

図3 式(6)の曲げモーメントモード図

図3 式(6)の曲げモーメントモード図

図3のモード図から、曲げモーメントは載荷点直下で最大値を取り、その近くで反転モーメントを迎えるべく変曲点が存在することが分かる。この問題での変曲点は βx=π/4 に存在する。載荷点から離れると、急速にゼロになっていくことになる。この局部的な力学現象は、そもそも一つの集中荷重を対象とした問題であることを考えれば、直感的にも容易に理解されると思う。これを具体的に体感する例として、地盤上に置かれた軌道レールを考えてみよう。新幹線に使われているレール材の諸元は次のようだ。

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■下フランジ幅 : 145mm
■断面2次モーメント : 3,090cm4

そして、地盤の反力係数を標準の4.32kgf/cm3として、図3から曲げモーメントがゼロとなる位置を βx=3.5 とみなして計算していくと、その具体的位置は約x=5mとなる。このレール1本の長さは、25mもしくは50mということだが、どんなに大きな集中荷重をかけても(と言っても線形解析が有効な範囲内であるが)、載荷点から5m以上離れた位置では、レールに荷重が載っていることを感じないというわけだ。

図3が示すような局部的な応力問題の例を次回の話で紹介したいと思っているのだが、今回の最後に、その前準備として、次の問題を提示しておく。

今、図4、図5のように平面内の2種類の直線構造モデルに-有限要素法の要素でいえば、ビーム要素のような1次元要素のようなもの-左右に示した荷重分布の載荷があったとき、それぞれ、左右の荷重分布の違いでAとBのような変形モードに違いが出ている。この違いは一体、何を解析しているのかお分かりだろうか、というのが読者の皆さんへの問題だ。ちょっと考えてみてほしい。

図4 構造モデルAの変形モード

図4 構造モデルAの変形モード

図5 構造モデルBの変形モード

図5 構造モデルBの変形モード

2013年3月記

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