第8話 オイラー小事典
前回、オイラーの業績を述べました。彼は数学分野、物理学分野両面での功績があり、後世、彼の名が冠せられた専門用語が多くあることは既に述べました。構造物の力学に携わる者は、剛体を扱う一般力学に始まり弾性学、構造力学を経て数値解析の分野に至るまで、いつかはそれらに出くわす運命にあります。
ここでは、筆者自身が出くわしたそれらの専門用語を羅列してみました(純粋に数学的なものは除く)。こんなことをしたって何の役にも立ちませんが、改めてオイラーの業績を思わずにはいられません。そう言えば、書店の数学関係の書棚に“オイラーの贈り物”という分厚い本があったのを思い出しました。
まさに、18世紀の偉人からの贈り物をわれわれは甘受しているわけであります。
1.オイラーの運動方程式[一般力学]
一般的なニュートンの運動方程式から誘導された剛体の回転運動における運動方程式です。地球のような球体の回転運動を表記するのにうってつけ。
2.オイラー角[一般力学]
回転する剛体の位置決めをする3つの角座標。3次元の球座標とよく似ていますが少し違います。球座標のように半径R はありません。固定された座標系と剛体の主軸との関係から3つの角度が決まり、それによって剛体の位置が決定されます。
3.オイラーのベルト理論[一般力学]
本エッセイの第4話をご覧ください。
4.オイラーの微分方程式[一般力学/構造力学]
変分法に等価な微分方程式。弾性体の問題をエネルギー法(数学的には変分法)を利用して、最後まで変分問題として解くのが有限要素法のテクニックであります。一方、オイラーの微分方程式に帰着させると伝統的な弾性体の平衡方程式が得られます。
5.オイラー梁[構造力学]
厳密にはBernoulli-Euler 梁といいます。断面剛、平面保持の仮定、せん断変形無視の一番古典的で、一番普及的な梁理論のことです。せん断変形を考慮した梁をチモシェンコ(Timoshenko)梁といいます。
6.オイラーの座屈公式[構造力学]
弾性範囲内を対象とした長柱の古典的座屈理論。
7.オイラー表示[連続体力学]
連続体の運動を表示する1つの方法で、非線形力学では重要な基礎概念となります。運動中の現在位置における位置ベクトルと時刻を独立変数として用いる方法で空間表示法ともいわれます。主として流体力学で利用されています。一方、運動が開始する前に設定されていた基準座標系における各物質点の位置と時刻を独立変数に取る方法をラグランジュ法、またを物質表示法といいます。固体力学では、分かっているのが変形開始前の初期の状態だけであるところから後者が採用されることが多いです。
8.オイラーの歪テンソル[連続体力学]
弾性体の歪を変形後の座標で表した歪テンソル。またの名をアルマンシの歪テンソルともいいます。対照的に変形前の座標で表示した歪テンソルはグリーンの歪テンソルと呼ばれています。固体の非線形力学では一般に後者が採用されることが多いです。
9.オイラー応力[連続体力学]
変形後の面積を参照した応力で真応力ともいわれています。線形解析では区別する必要のなかった応力の定義方法が非線形解析になるとラグランジュ応力、キルヒホッフ応力と各種の応力の定義が登場することになります。
10.オイラーの陰(陽)解法[数値計算]
1階の微分方程式に対する数値解法の一種。伝熱問題や浸透流問題では現象の方程式が時間の1次微分形式になっており、この数値解法としては時間の微分項を差分項で近似します。その際、いくつかの差分化がありますがオイラーの陰(陽)解法はその1つです。
2001年5月記