FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第110話 紛らわしい2つのモーメント

今回のテーマは、FEMの梁要素に出てくるモーメントには、実は2種類あるという話である(曲げモーメントとトルクの違いではない)。以下、初等材料力学が対象とする平面オイラー梁を話の材料とする。

まず、梁断面の応力分布から曲げモーメントを求める次の式を思い起こしてほしい。

110-a

あるとき、さるFEMユーザーから式(1)の正負の符号定義を質問されたことがある。彼いわく、「参照座標軸(上図の場合、紙面法線方向z軸)の右ねじ回りを正と考えていいのか」と。結論から言って、この言い方は間違っているのだが、この間違いは、2種類のモーメントを混乱しているゆえのことである。曲げモーメントを回転力である力の概念と捉えた結果の間違いである。この辺のこと、筆者の知る限りどの教科書にも明確に区別していないため、誰しも陥り易い問題点だと思うので、ここで採り上げた次第である。

 

学生時代で習う初等材料力学では、メインテーマとして曲げモーメントのことを習う。材料力学の教科書のそのページのことを思い出してほしい。梁のたわみ曲線を記述する箇所で、下の式があるはずである。

110-b

式(2)にある微分項は、たわみ曲線の曲率を表している。右辺前にある負号は、鉛直座標軸正方向に凸に曲がる曲線の曲率は、その変形をさせる曲げモーメントの慣習的符号定義と逆になるためである。EIは、曲げモーメントが曲率に比例するという比例定数、いわゆる曲げ剛性である。

もし、われわれが対象とする構造物が桁構造だけであれば、必要とするモーメント概念も曲げモーメントだけで済むので、事は単純になるのが、現実はそうはいかない。格子構造もあれば、ラーメン構造もありということで、構成部材同士の結合点、すなわち格点(FEMでは節点)での力の平衡方程式を導かなければならない。このとき、格点の回転平衡で考えるモーメント力は“回転モーメント”とも言うべき、物理的には力の範疇にあるモーメントである-回転モーメントという用語、いささか重語めいていて、言葉に厳しい方からは顰蹙を買うかもしれないが、曲げモーメントと対蹠的に考えるには、この用語の方が、分かりがいいと思い本話限定で使用させてもらうことお許し願いたい。

そんなことで、一口にモーメントといっても2種類存在することになる。その2種のモーメントが対応する幾何学的変形量との相応関係は次のとおりである。

曲げモーメントは、別名“合応力”を持つように、応力同様、作用面の位置と方向に依存する物理量であり、テンソル的に振る舞うものである。一方の回転モーメントは、数学的には(擬)ベクトル量である。標準的な符号の定義は、参照座標軸に関して右ねじ回りを正とするものである。部材座標系、全体座標系あるいは変位座標系間で座標変換しているのは、この回転モーメントの方なのである。

先の質問者の間違いは、式(1)の曲げモーメントMを回転モーメントと捉えたことに原因がある。応力に対応するのは曲げモーメントの方であり、この場合の曲げモーメントの正負は、式(1)右辺が示す正負に従い、座標値yの正側で、また軸応力σも正(引張応力)ならば、右辺項は正だから、それがMの正値と考えるべきである。

ここで、ややこしいことが起こることになる。板要素やシェル要素の場合では、曲げモーメントが単位幅当たりという次元が付帯するので、回転力の次元を持つ回転モーメントとは違いが明確である。かつ、反力計算時を除いて-しかも、反力値はソルバーが計算してくれる-節点位置での内力の回転モーメントには一般ユーザーはあまり興味がない。

ところが、梁要素の場合、曲げモーメントは全断面対象であるため、物理次元が回転モーメントのそれと同じとなる。さらに、同次元であることを利用して、本来、曲げモーメントである材端モーメントがそのまま格点の回転平衡を考える際の回転モーメントとして使われる1 という梁要素の特殊性がある。言葉を換えて表現すれば、梁要素の材端モーメントは2つの顔を持つということになる。“マトリックス構造解析”と謳った多くの参考書では、この点のことを曖昧にしてきたように筆者には感じられる。結果的には、間違いが起こることはないのだが、本来、曲げモーメントである材端モーメントを説明も無しに最初から回転モーメントのように扱っているように思われる。

 

ここでFEMの筆法をもって、曲げモーメントと回転モーメントとの間の紛らわしさの理由を解説してみよう。

標準的な(変位型)FEM定式化の手順(本エッセイ第70話参照)では、要素内の歪分布を仮定し、材料構成式から要素内の応力分布を求め、さらにその応力分布から寄与されて生まれる節点力、すなわち等価節点力という内力を求める手順となる。この内力が外力と釣り合うことになるわけである。

ここで注意が必要なのは、用語のことで、上で言った歪、応力、内力は、梁や板要素のように曲げに関する物理量を対象とする場合には、それぞれ曲率、曲げモーメント、回転モーメントと置き換えてほしいことである。

ここでは話を簡潔にするため、両端のたわみが拘束された梁要素を対象とする。それでも、今回の話題の本質から外れることはない。

110-d

梁要素の変位(撓み)関数には、定番のエルミート関数が使われる。今の場合、要素両端の撓みがゼロだから、次の式となる(記号は上図を参照)

110-e

曲率(χ)は撓みの2階微分なので、式(3)からマトリックス表示すれば、次のようになる。

110-f

式(4)のBマトリックスは、第70話にある式(16)のBマトリックスに相当するものである。曲率に曲げ剛性EIを乗すれば曲げモーメントMbが求まる。

110-g

そして、同じく第70話の第18式の助けを借りて、要素両端における(弾性変形に由来する)内力モーメント-これ、すなわち等価節点力で、ここで言っている回転モーメントのことである-が次のように求まる。なお、変数は、座標変数xではなく無次元の自然関数ξを使用しているので、積分に当たっては、両者間の変数変換ヤコビアンが必要になる。それが|J|である。

110-h

ここで、要素右端の位置を示す、ξ=1を式(4)に代入していただきたい。その結果のBマトリックスを式(5)に代入すれば、右端の曲げモーメントが次のように求まる。

110-i

式(7)を式(6)と比較すれば、一目瞭然、要素右端での曲げモーメントMbと回転モーメントM2が一致していることが分かる。これが、梁要素の材端モーメントでの紛らわしさの原因なのである。こんなことが起こるのは、梁要素だけであって(トラス要素も含む)、FEMの他の要素では起こらない。この意味で、FEMの世界では、梁要素は異端児なのである。

2016年11月記

  1. FEM以前に活躍していた撓み角法などでは、材端モーメントの反作用力として格点の回転モーメントを捉えていた(符号反転)。 []

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読者からの寄せられたコメント

  1. name より:

    質問がございます。
    曲げモーメントと曲率の関係は式(1)で表せます。
    では、回転モーメントと格子の回転角の間の関係はどのような式で表せますか。

    • Yoshiaki Harada より:

      お答えします。
      曲げモーメントと曲率の関係式は(1)ではなく(2)ですが、そのことはよろしいでしょうか?
      格点での回転モーメントに相応する変形量は、撓み角です。ただし、その格点での撓み角だけでなく、対象部材の他端の撓み角も関係してきます。
      それを表現しているのが、エッセイ本文内の式(6)や(7)です。これは、FEMでも格子桁の伝統的手法、撓み角法でも同じです。
      注意していただきたいのは、式(6)や(7)は、中間荷重の無い場合の式であり、それが存在する場合は、その影響項が追加されます。

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