FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第111話 チャンネル型断面梁の力学 – 序

過日、FEMユーザーからこんな質問を受けた。「チャンネル型(溝型)断面を持つ単純梁のスパン中央フランジ部に鉛直方向集中荷重を掛けたとき(図1)、FEM解析の結果が、梁の曲げ公式から得られる結果と随分違うのはどうしてなのか」と。なお、本FEMモデルは、フランジ、ウェブをソリッド要素でモデリングしている。

図1 チャンネル型断面単純梁のソリッド要素FEMモデル

図1 チャンネル型断面単純梁のソリッド要素FEMモデル

構造材諸元の詳細を記すことは差し控えたいが、この対象構造物は、梁公式の適用に充分のスレンダー比(スパン/断面代表寸法)ではあった。そこで、筆者が再度計算してみたところ、両者の梁軸応力の結果が表1のように計算された。なお、ここでは、数値比較に論点を置きたいので、単位については一切省くことにする。

注1)
応力を求めた断面位置は、FEMでの載荷点付近の局所的乱れを避けるためスパン中央より小距離、支点よりにずらした位置としている。
注2)
A~D点は、肉厚中心面上の点を意味する。


 

表1を見れば一目瞭然、大差が出ている。公式結果のように圧縮側、引張側と明確に分かれているわけでもない。これでは、ユーザーの戸惑いもうなずける。しかし、これが実際の現象なのである。

大差の理由は、チャンネル型断面の梁では、もはや梁の曲げ公式の出所である初等材料力学の範疇では対応できないからである。チャンネル型断面ほか、I型断面梁あるいはアングル断面(L型断面)梁などのように薄肉材で構成され、一般に「薄肉開断面梁」と呼ばれるタイプの梁の材料力学は、一段レベルの高い力学知識を必要とするのである。それは、主に薄肉開断面梁を対象とする、曲げ力学とねじり力学の連成を扱う「曲げねじり理論」である。

図3 各タイプの薄肉開断面

図3 各タイプの薄肉開断面

曲げねじり理論では、「そり(Warping)関数」、「せん断中心」あるいは「曲げねじりモーメント」という用語がキーワードになってくる。深く弾性体の力学を扱う材料力学の参考書ではこれらを扱った章もあるが、標準的な材料力学の教科書では割愛されていることが多い。ティモシェンコの教科書でも、せん断中心やその概念の源泉である「せん断流」の解説文まではあるが、それ以上は深耕していない。仮に、標準的な教科書に、曲げねじり理論を掲載しても、板の理論と同様、時間的な制約のため、学部学生さんの耳には届いていなかったことが容易に想像される。薄肉断面の梁力学を詳細に説くとすれば、それこそ1冊の本になってしまうのである。実際昔は、そういう書籍がいくつかあった1

ところで、初等材料力学の教科書でも、梁のねじりをテーマにした章で、同じく薄肉断面の代表の一つであるBOX断面(箱断面)のねじり力学が出ていたことを読者は思い出さないだろうか。さらに、そこでは、せん断応力のことは出てくるが、梁軸方向の軸応力については一切言及されていないことも思い出さないだろうか。実は、初等材料力学で扱うねじり力学は、充実断面やBOX断面を対象とする(薄肉開断面では、構成要素であるフランジ一つひとつが充実断面材として扱われる)、「サンヴナンのねじり」と呼ばれる単純ねじりの力学なのである。こちらのねじりモーメントでは、断面が面内で剛体的回転するだけで、それが別段、軸応力を誘発しないことはよく知られている事実である。梁の曲げ理論での大仮定である“面内剛の仮定”にも干渉しないので、曲げ変形とねじり変形とは連成せずに同時作用することができるのである。

ところが、薄肉開断面梁では、載荷状態によっては、曲げとねじりが連成し、かつ断面が面外にそることが知られている。この“そり”が、全く自由な状態であれば、元来の単純ねじりと同じ状況となり、なんら気にすることはないのだが、実際の構造物では、断面の一部あるいは、全面で“そり”が拘束されることがほとんどで、この“そり拘束”によって、新たな軸応力が発生することになる。そり拘束の影響を考慮した梁理論が薄肉開断面梁には必要で、これは、面内剛、面外変形の梁理論と言えるものであり、これこそが「梁の曲げねじり理論」なのである。

以下、冒頭の問題の大差理由に、曲げねじり理論を引用するが、話を簡単にするため、平面梁の鉛直方向の載荷問題を考えたい。荷重のことを言う場合は、鉛直方向に載荷される横荷重をイメージしていただきたい。もちろん、断面回転による面外変形は出てしまう。冒頭の件もこの範囲の問題である。

 

平面梁対象の曲げねじり理論での梁の応力公式は下の通りである。

ここで、座標系の原点は図心位置に採ってあり、式(1)右辺第1項は、通常の曲げ公式と同じである。新たに出ている第2項が曲げねじり理論特有の項で、3つの変数の名称と意味合いは次の通りである。

 

ω:
そり関数(Warping Function)。曲げ応力公式での座標値に相当。但し、面積の次元を持つ。
Mω
曲げねじりモーメント。曲げ応力公式での曲げモーメントに相当。
Cω
曲げねじり定数。曲げ応力公式での断面2次モーメントに相当する断面定数の一つ。


 

曲げねじり理論が初めてという読者には、この段階で、上三つの具体的物理量を理解してもらうというのは酷な話であるが、これらについては、次回でそれらのプロフィールを少し話すつもりである。ここでは、とりあえず薄肉開断面梁がねじれ変形を生ずる場合の天下りの応力公式として捉えてもらえば結構である。

一般に、横荷重が掛かる方向ラインが断面の特別なある一点を通過しない限り、断面は必ず回転する。すなわち、梁は曲げ変形と同時にねじれ変形を起こしてしまう。この特別な点は「せん断中心」と呼ばれている。せん断中心は、上で出てきたそり関数ωを使って求めたり、あるいは「せん断流」という概念の導入で求めることができるものだ。せん断中心のプロフィールについても次回で紹介する予定である。

せん断中心は、薄肉開断面では特に重要な概念となる。その具体的な位置を求める際は、一般的断面では面倒な計算を必要とするが、ある特別な断面では、計算不要となり全く簡単である。載荷方向に対称軸を持つ断面の場合である。I型断面や✛型断面がそれである(図3左)。せん断中心は、対称軸上に存在するものであるからである。しかし、冒頭の図にあるようにコ型にしたチャンネル型断面では、載荷方向に対称軸を持たないため、せん断中心の位置を求めるには計算を要することになる。こういう非対称薄肉断面のせん断中心は、実際の断面領域外に位置することになる(図4右)。

図4 薄肉開断面のせん断中心位置

図4 薄肉開断面のせん断中心位置

さて、図4右のコ型断面を眺めてほしい。フランジに掛かる荷重は、どの場所に載荷されてもすべてせん断中心からずれるので、必ず断面は回転することになる。冒頭の問題がこれである。したがって、単純梁にはトルクが掛かることになり、梁はねじれ、それに誘発された曲げねじりモーメントMωが発生し、軸応力を求めるには、式(1)右辺の第2項(そり応力と称す)を追加しなくてはいけなくなる。

 

冒頭問題の表1で、梁理論の公式で求めた値は、式(1)右辺第1項だけであったのに対し、一方のFEM解析では必然的に曲げとねじりの作用結果が反映されている結果だったので、両者に違いがでるのは当たり前だったわけである。

それでは一体、式(1)右辺第2項から出てくる値はいかほどか、という興味がわいてくるのが当然であるが、筆者が計算したところ、表2のような結果となった。

なんと、絶対値が曲げ応力の3倍以上の開きを持つ値ではないか。追加どころか、そり応力の方が完全に主役となっている結果である。これを見ても、薄肉開断面梁の問題では、いかに曲げねじり理論が必要になってくるかお分かりいただけかたと思う。

 

念のために言っておくが、これで冒頭のチャンネル型断面単純梁の問題で、梁理論とFEM解析との大差理由が完全に解決したわけではない。表2で出ている第1項の値と第2項の値を加算した結果と表1 のFEMの結果を比較しても、いくらか疑問の残る差が生じていることを発見するであろう。

この疑問点を解消するには、今度は、FEMモデルの方に目を転じる必要がある。表1で出ているFEM結果は、当然曲げとねじりが連成した結果である。疑問点解消には、この両者を分離して分析する必要がある。それには実際の荷重をせん断中心の位置に置いて、鉛直方向集中荷重とせん断中心回りのトルクに分離した荷重条件に換算してから別々に計算し直す必要がある。

もし、読者がこの作業を実際に実行されたなら、前者から出る曲げ応力では、梁理論とFEM解析の一致を見るであろう。したがって、残差の主因は曲げねじり作用の方にあることになる。これをさらに追究していきたいのはやまやまだが、話が延々と続くことになるし、それは別のテーマとなってしまう。ここでは、その原因を「曲げねじり理論の仮定と限界」という指摘を以って、今回の話を終わらしていただくことにする。

2017年2月記

  1. V.Z. Vlasov著、奥村敏恵他共訳“薄肉弾性はりの理論”、技報堂、1967年
    小松定夫著、“薄肉構造物の理論と計算Ⅰ”山海堂、1969年 などが代表的 []

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