FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第112話 チャンネル型断面梁の力学 その2
                - そり関数の数理

前回の話では、「曲げねじりモーメントMω」、「曲げねじり定数Cω」あるいは「せん断中心(S.C)」といった物理概念を天下り式で登場させたので、今回は、それらのエッセンスを解説してみたいと思う。前話の式(1)を見てすぐ気付くことだが、そもそも「そり関数ω」とは何ぞやが分からなければ話が進まない。それで、そり関数のことから始めたい。但し、せん断中心だけは、別にそり関数の知識がなくても「せん断流」の概念から確定できることだけは断っておく – 標準的な材料力学の教科書では、こちらの手法で解説していることが多いので、興味ある方はそれらを御覧いただきたい。

 

まずは3次元梁理論での基本ステージとなる座標空間内に薄肉断面の構成要素を考えていただきたい。まあ、フランジのようなものをイメージしてもらえばいい(図1)。x軸を梁軸とし、y、z座標軸は断面全体の主軸で考える。念を押しておくが、ここで考えている断面は梁軸方向に一定であることを前提にしている。

図1 梁座標空間内の薄肉部材

図1 梁座標空間内の薄肉部材

図1でsというのは薄肉断面の肉厚中心ラインに取った輪郭座標軸である。原点位置は輪郭線上の任意点に取れる。また、括弧内の変数はそれぞれの軸方向の変位を示している。

さて、薄肉開断面梁の理論は、最初に次の仮定設定がなされる。

仮定1
梁断面は面内剛である。すなわち、断面がねじれるときは、断面全体が剛体的回転をする。この仮定は、薄肉開断面梁に限らず、梁力学全般に設けられる仮定でもある。
仮定2
肉厚中心面では、せん断変形は生じない。すなわち、梁軸と直交していた横断面は、変形後も直交性を保持すること。
仮定3
肉厚方向には、軸応力もせん断応力も一定であるとする。

ここで、少し余談をする。読者は、上の仮定で疑問を感じないだろうか。仮定2と仮定3を同時設定すると、結局薄肉断面には、せん断応力は全面でゼロとなってしまう。それでは、ねじれ変形が発生しなくなって、曲げねじり理論そのものが成り立たなくなる。実は、この舞台裏を明かせば、変形条件を考える際は、せん断変形を無視しておきながら、平衡条件を考えるときには、せん断応力を考慮するという(伝統的な梁の曲げ理論でも黙認されていた)矛盾がここでも登場しているのである。せん断応力(歪)の矛盾的取り扱いは、どうやら梁理論での伝家の宝刀のようである。

 

閑話休題。さて、仮定2より肉厚中心面の面内せん断歪が生じないわけだから下式が得られる。

式(1)をsで積分すると

となる。ここで、u0 (x)はs座標軸の原点s0での梁軸方向の変位である。

 

一方、仮定1により、梁がねじり変形を起こして断面が回転すると、微小回転である限り次の関係式が成立している。

図2 断面の回転

図2 断面の回転

式(3)における、rは梁横断面内に任意に取った回転中心である極点Pから肉厚中心ラインまでの腕の長さであり、θは断面のねじり角(回転角)である。

そこで、式(3)を式(2)に代入すれば、次の通りとなる。

図3 扇形面積

図3 扇形面積

式(4)右辺の積分項を眺めれば、これは、極Pとs座標の原点S0と任意点からなる三角形の面積の2倍となることが分かる。それで、この積分項に次の変数名を与えることにする。

これこそが、そり関数なのである。

ここでは、肉厚中心線を直線に取ってきたが、一般の薄肉断面では曲線であっても構わない。それで、ウラソフは、このωのことを「扇形面積」と名付けている。

上で見てきたように、そり関数を求めるには、s座標の原点s0と極Pの位置決めが任意であった。これでは、そり関数がこの2点の位置に依存してしまい、はなはだ都合悪いことになる。そこで、原点s0の位置にかかわらず、そり関数が変動しない極があるのかという関心点が出て来る。結論を言えば、その極は存在して、実はそれこそがせん断中心なのである。

それでは、せん断中心の位置はどうして決まるのかと言えば、これは、図心位置を決定するときの手段にそっくりである。図心の場合、仮の座標軸に関する断面1次モーメントが必要だったが、せん断中心の場合は、「扇型相乗モーメント」なるものが必要となる。今、仮に設定したそり関数の極をPとした時のy軸に関する扇型相乗モーメントは、次の通りである(今はy軸方向に限定して考察している)。

すると、せん断中心の位置座標が次の式で求まる。

それで、チャンネル型断面(コ型)場合、暫定の極Pをウェブ厚中心ライン上に置くと、ウェブ中心ラインから次の距離外側にあることになる。

図4 コ型断面のせん断中

図4 コ型断面のせん断中

せん断中心の位置が判明すると、改めてせん断中心を極とするそり関数ωを求め直すことになる。そして、そのそり関数を使って、曲げねじり定数Cωと曲げねじりモーメントMωが定義されることになる。

チャンネル型断面の曲げねじり定数Cωの具体的な姿については、そり関数ω(もちろん、極がせん断中心)の分布とともに最後に掲示しておく。

 

式(6)~式(9)についての詳細な誘導過程を見ることは、退屈な作業で本エッセイにはふさわしくないと思いここでは省いたが、もしそれらが気になる方は、当分野の有名人ウラソフ(Vlasov、旧ソ連)の名著(前話で紹介済み)の一読をお勧めする。なお、ウラソフは、曲げねじりモーメントのことを「バイモーメント」と呼んでいる。

 

以上、薄肉断面梁の曲げねじり理論で出てくる物理量は、伝統的な梁曲げ理論でのそれらと驚くほど類似性を持っていることにわれわれは気付く。未登場の物理量も含めて比較表を下に掲載しておく。但し、これほど両者に類似性を見るのに、ねじり角、たわみという変形量そのものの姿は、両者で全く違うことを思い知らされるのである。この話は、次回のテーマとしたい。

 

付記. チャンネル断面のそり関数とCω

2017年3月記

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