FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第109話 四辺形要素の変な性格

高次のアイソパラメトリック要素には、その振る舞いに直感に背く点があることは、使用経験者にはよく知られているところであろう。それでは低次要素には一切無いのか言えば、実はそんなことはない。ある応力場で低次四辺形要素を使えば、ちょっと直感に反する性質を持っていることを発見する。今回は、そんな話題の紹介である。

図1をご覧いただきたい。これは、中空を持つ円筒構造や球構造に内圧が載荷された問題に対してFEMモデリングした様子を示している。対称性を利用すれば、円周方向に適当な角度分メッシュ分割すれば事足ることは理解できるはずである。図1では、小さい円周角度の領域を切り取っているので、円周方向1分割のメッシュを採用している。

図1 軸対称構造でのFEMモデリング

図1 軸対称構造でのFEMモデリング

今、内径Ri =50、外径Ro=100、そして円周角5度程度を採用して、数値計算を行ってみる。以下では、半径方向の応力σrに注目する。

この場合、下の理論式で見るように、応力を求めるのに材料定数は関係しないので、FEM計算では適当な値を採用すればいい(なお、長さ単位は任意)。

109-a

計算結果を上の理論式から求めた理論値と比較したのが、図2、図3 である。図2 は、円筒横断面に平面歪要素を使って解析結果であり(いうまでもなく、端部から充分離れた断面を対象としている)、図3 では球断面に対して軸対称平面要素を使っている。なお、グラフ横軸は、図1 でのメッシュ図での節点位置を表している。

図2 円筒断面の半径方向応力の分布

図2 円筒断面の半径方向応力の分布

図3 球断面の半径方向応力の分布

図3 球断面の半径方向応力の分布

理論式から分かる通り、この応力場は、不連続域や特異点もない穏やかな分布をしていて、ただ1点を例外として、FEM解と理論解はよく一致しているのが見て取れる。例外とは、グラフの頂上部に記した赤丸の部分である。どちらの結果も、FEM解は、理論解とは減少の方向へと乖離している。FEM解のグラフを描くとすれば、外径位置から内径位置へ向かって上昇する様子が、内径位置で必ず頭を下げるのである。構造設計者の立場から言えば、危険設計となるので、よくわきまえておかなければいけない点である。

頭を下げる理由ははっきりしている。グラフでは、節点位置の応力が表示されているが、この値は当然隣接要素間の節点値で平均化されたものである。その節点での応力値は、要素内のガウス積分点での値を外挿計算されたものである。ところが、各要素の積分点での応力値が直感に全く反する分布となるのである。構造全体で見られる応力分布からは、外径に近い積分点での応力値が、内径に近い積分点のそれよりも小さくなると思われるのに、実際は全く逆の大小関係となるのである(図4参照)。いわゆる、「本流の中に逆流あり」といった状態を示すのである。

内径位置以外の節点での値が理論値とよく合うのは、平均化処理がこの不都合をキャンセルするからである。ここまで言えば、読者にはもうお分かりと思うが、内径位置にある節点での値が理論値から乖離するのは、平均化する相手がいなくて、小さい値のままとなるからである。

図4 積分点を通る半径方向線上の応力値

図4 積分点を通る半径方向線上の応力値

図1の構造モデルのように応力分布が軸対称になるケースでは、円周方向応力σθは円周方向で当然一定である。どうやら、こういう条件の場合に、図4のような状況となるようである。面白いことに、σθの方は、この現象は無いどころか、σrの減少化を埋め合わせるようにFEM解は理論解を上回っている。

さらに追記しておけば、ここでは2次元要素を俎板に上げてきたけれど、この性格は3次元の低次ソリッド要素でも持っている性格である。低次のアイソパラメトリック要素が共通的に持つ性格のようである。なお、高次要素には、この性格は見られない。

2016年10月記

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