FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第95話 アーチの数理 その2 – 放物線アーチの近似

前回の最後で言った“からくり”とは、アーチの微小線素の平衡方程式を立てる段階で、予めアーチ断面には曲げモーメントが存在しないことを前提にしていたことである。したがって、直梁の場合のようなモーメントの釣り合い式が不要だった訳である。しかし、これは仮想論であって、現実の構造材で曲げモーメントが一切存在しないアーチなどはない。この点が、引張力だけで安定的に平衡が保てるケーブルとは違っているのである。

一般に、アーチは圧縮力が際立つものだから、つい圧縮力のみが存在する構造だと思われがちだが、そんなことはあり得ない。厳密にアーチ理論を追究していけば、必ずアーチ断面には曲げモーメントは発生しているものだ。ただ、ある仮定を認めれば、近似的には曲げモーメント≒0 になるアーチ構造は見つけられる。前話の放物線アーチも近似理論だった訳である。

そんなことで、以下、2 ヒンジアーチの近似理論と厳密理論の関係を見ていくことにしよう。但し、アーチ軸に関して一旦、放物線を離れて一般のアーチ曲線に戻ることにする。構造力学の教科書では、1 次の不静定構造物である2 ヒンジアーチの解析には、水平反力H を不静定力として、最小仕事の原理を適用するのが定番手法のようである。そこでまず、せん断力の寄与を無視した-これは、初等梁理論の常套手段-曲げモーメントMと軸力Nによるアーチ全体の弾性歪エネルギーWの式を考えてみる。

95-a

一方、アーチ任意点での曲げモーメントM 及び軸力N は、図1 を参考にして、式(2)のように求まる。φは、アーチ曲線任意点における水平線に対する接線角を意味している。

図1 2 ヒンジアーチ

図1 2 ヒンジアーチ

95-b

式の誘導過程は省かしてもらうが、式(2)を式(1)に代入して最小仕事の原理∂W/∂H = 0 を適用すれば、下記の通り、水平反力H が求まることになる。

95-c

但し、式(3)においては、dscosφ = dx の関係を使用していることを断っておく。

本式から、分母がアーチ軸の曲線形状だけで決まり、分子は曲線形状と荷重分布状態で決まる関係を表していることが分かる。すなわち、水平反力H を決定する際、アーチ軸線が放物線であるか円弧であるかの寄与は分母項、分子項に関係し、荷重分布状態は分子項のみに関係する訳である。

ここで、今後の話の展開に便利なように式(3)の各積分項を次のような記号に置き換えることにする。

95-d

式(4)で注意していただきたいのは、式(3)の分子第2 項にあったV sinφ に関する積分式が欠けていることである。これは、アーチ両端の位置が水平軸上にある限り、アーチ形状の対称性ゆえクラウン部を境に sinφ の符号が反転するため、積分結果、左右の値が相殺してゼロとなるためである(鉛直反力V はxに関しては定数)。

さて、式(4)はアーチ形状を限定しないで得られた水平反力であるが、ここからは、形状を放物線アーチに戻すことにする。

構造設計の現場においては、f/L の値が小さい、すなわち浅いアーチ構造が採られることが多いのだが、この時、近似的にcosφ ≒ 1 、sinφ ≒ 0 とおいても差し支えなく、式(4)は、 G3 が落ち、D2 = L となって、次式のようにやや簡略化されることになる。

95-e

一方、前話での式(5)と式(7)で求まる放物線の方程式は次の通りである。

95-f

そこで、式(6)を式(5)に代入して、新なパラメータを次のように設定すれば、

95-g

水平軸方向に分布した等分布荷重が掛かる放物線アーチでの水平反力H が次のように求まる。

95-h

このとき、クラウン部の曲げモーメントMcは、次のようになる。

95-i

式(8)、式(9)が公式集1 で掲載されている式である。式(9)は、スパン中央での曲げモーメントの値が、直梁のそれより必ず減少しいている意味をよく味わってほしい。

ここまでくれば、前話に出てきた放物線アーチの理解が深くなると思う。前話での水平反力H は、パラメータμの値がゼロの場合の特別なケースであり、その時には、クラウン部の曲げモーメントもゼロとなる。最大曲げモーメント位置であるクラウン部の曲げモーメントがゼロだから、アーチ全長で曲げモーメントはゼロになるというわけである。

μがゼロでなくても、近似的にゼロとみなしてもいい、すなわち断面積に対して断面2 次モーメントが小さい(λが小さい値)断面でも、曲げモーメントが小さくなることを式(9)は示している。

最後に、軸力と曲げモーメントの比較をしてみよう。

軸力が大きく、曲げモーメントが小さい、と言っても次元が違う物理量なので数値を直接比較はできない。そこで、両者から生ずるクラウン部の応力値を大雑把に比較してみる。ここでは、直径D の円形断面と単位幅、梁高D の矩形断面の二つをアーチ断面の代表者として、軸力由来の応力値に対する曲げモーメント由来の応力値の比を見てみる。軸力は、式(2)から水平反力H と同等の値とし、上に出てきた両断面のパラメータλ、μの値を計算すると、次のようになる。

95-2

上式は、梁高のライズ長に対する比よりもやや低い数値が、曲げモーメント由来の応力値の割合(対軸力由来)だと物語っている。d/f が= 0.1ならば、曲げモーメントの影響は軸力に対して、たかだか約1 割弱だということである。

2015 年6 月記

  1. 例えば、土木学会編集、”構造力学公式集” []

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