第24話 熱から生まれたフーリエ級数(2)
熱伝導現象を表す偏微分方程式は定常状態では結局、ラプラスの方程式となる。フーリエは薄い板の熱伝導問題を考えた。この方程式の解法に彼は変数分離法を使う。変数分離法というのは、ほんとうに“コロンブスの卵”的テクニックである。概要は下記の通りである。
T(X, Y)を X の関数 φ(X)と Y の関数 Ψ(Y)の積と仮定して分離する。すなわち、
これを元の式に代入すると次式が得られる。
上式右辺の定数 C は、左辺が X のみの関数、中間辺が Y のみの関数であるのに、それらが等しいことから、結局、両式が定数でしかあり得ないことを意味している。
最後の式はおなじみの2階微分方程式であり、2番目の等号からなる微分方程式の方の解から三角関数が登場することになり、ここからフーリエ級数が誕生する。
実は微分方程式の解を三角関数で展開する方法はフーリエが最初ではない。ずっと以前、弦の振動問題に関してダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoullir;瑞1700-1782)が同様な方法で振動弦の式を求めていたのである。これも今で言うフーリエ級数である。ただし、完全には説明しきれていなかったり、フーリエの周り同様、ダニエルの予想にオイラーが反対したりした経緯があった。フーリエの数学はこの問題の第2幕でもあったのだ。
フーリエはさらなる考究から、すべての任意関数はフーリエ級数に展開できるという結論を出すに至る。しかも、関数が連続関数であろうと不連続関数であろうと。これが、当時の数学者達を非常に刺激した。とても認められないというわけだ。しかし、当時の数学史の段階では、フーリエの数学を判定することができるまでには数学は発達していなかったのである。無限や連続の概念が確定されていなかったからである。厳密に判定されるまでには100年ほどの年月を要したとのことである。
皮肉なことに数学性ではさんざん非難を浴びたフーリエ級数であるが、応用面ではことごとく成功しており、数学者の議論を対岸の火事として、物理、工学分野ではどんどん利用されていった。数学面で決着が付いた今日でも、その応用面での衰えの兆しはない。
量子力学でも有効に利用されているとは驚きである。われらの有限要素法の世界でもフーリエ級数を利用している場面がある。
工学を学んだ人たちの間ではフーリエはオイラー、ガウスあるいはラプラスと同じように有名人であろう。しかし、オイラー他の人がいろんな部門で顔を出しているのに対して、フーリエはフーリエ級数(付随するフーリエ積分、フーリエ変換も含めて)のみでその名が人口に膾炙している。それだけ、われわれの応用面でいかに利用されているかの証拠である。
最後に。いたるところで微分係数が不連続になるギザギサした曲線まで適用可能が分かり、どんな曲線も展開できるかに思えた万能のフーリエ級数も現代数学にはついに屈する時が来た。有限領域(例えば正方形)を埋め尽くす曲線(ペアノ曲線)やフラクタル(早い話が岩手県三陸海岸線)では適用できないという。これらの曲線は1次元の曲線と2次元の面の中間の次元、例えば1.26次元(ハウスドルフ次元)をもつ曲線である。
2004年1月記