FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第25話 モーダルアナリシスの運命はいかに

いくらなんでも、工学部の門をくぐった者の中で次の形の微分方程式に一度もお目にかからなかったと言う者はいないだろう。

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言わずとも知れた定数係数の線形常微分方程式だが、工学系分野で対象とする物理現象では、とかく2階線形微分方程式が多い。上式で a=M(質量)、b=C(減衰定数)、c=K(バネ定数)とすると、一番の代表例である振動方程式となることは周知の通りである。

とっくに忘れてしまったという方に念のために言っておくと、微分方程式の解には二種のタイプがある。右辺項が零(斉次方程式)の解を基本解といい、零でない右辺項(非斉次方程式)に対する解を特殊解といったことを思い出しませんか。最終的に、この2つを重ねたものが微分方程式の解となる。振動方程式で言えば、前者が自由振動を表わし、後者が外力による強制振動を表わすことになる。

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さて、多自由度の振動問題を扱う場合(この場合、連立微分方程式になる)、重ね合わせの原理が使える線形問題の旨みを利用した“モーダルアナリシス”というすばらしい手法が使用されることが多かった。固有値解析から出てくる固有振動数、固有モードを利用して多自由度の振動を一旦、1自由度の振動に分解した後、重ね合わせる方法である。太陽光線がプリズムで七色のスペクトルに分解されるのと同じようなものだ。

ところで、このモーダルアナリシスを扱った参考書では、建設系のものとメカ系のものとでは、これが同じ現象を扱ったものなのかと疑いたくなるほど、内容の趣に違いがあることにお気づきだろうか。出てくる専門用語からして違う。前者に有効質量、刺激係数、応答スペクトルがあれば、後者にはコンプライアンス、モビィリティ、ボード線図などがある。

この違いは、同じ振動現象を相手にしても、振動方程式の右辺にくる荷重項の違いによるものだ。建設系では耐震設計に興味があるため、もちろん地震波を入力とするし、メカ系では機械的振動の定常波を入力するからである。前者では比較的継続時間の短い地震波を相手にしているため、自由振動の影響も入る振動開始からの過渡応答に注目するが、後者では自由振動が減衰して消滅してからも揺れている定常振動に関心がある。興味ある時間領域の違いが参考書の違いに現れているわけである。

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モーダルアナリシスは振動現象を分析的に取り扱う非常に優れた手法なのだが、建設系では軽視される傾向にあるかもしれない。以前は、モーダルアナリシスの1つの応用として、多くの建造物の地震応答解析に“応答スペクトル法”という便利な実用的手法が使用されていたのだが、筆者の感じでは最近ほとんど使用されていないのではと想像する。その分岐点は阪神大震災であったような気がしている。あれだけの大変形を扱うともなると線形理論をベースにした設計では贅沢な材料を要求することになり、とても割高なコストになってしまい事実上無理な話である。そこで靭性設計の出番となるわけである。

靭性設計の解析面となると、地震応答に幾何学的非線形、材料学的非線形の考慮が必至で、もはや、モーダルアナリシスの出番はなくなり、微分方程式を直接解いていく“直接積分法”が主役に躍り出てくる。

直接積分法というのは時間微分を差分化して時々刻々と解いていく全くの数値解析で、モーダルアナリシスに比べると味も素っ気もない手法であるが、これなしで非線形振動の問題は解けないのも事実である。

モーダルアナリシスだけでなく、将来、振動全体の解析面での教科書の扱いが建設系とメカ系で違ってくるかもしれない。

2004年3月記

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