FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第12話 回転自由度について

プリ/ポストプロセッサの完備された有限要素法解析システムの商用コードを使用する場合――特に制御変数の設定等が不要の線形解析の場合――の弊害は、少々の入力データの間違いがあっても結果がアウトプットされてしまうことである。換言すれば、入門者、初級者レベルのユーザーはアウトプットの評価に充分注意が必要ということである。

有限要素法解析が大衆化した現在でも、現場ではまだまだ混乱が残っている。顧客からかかってくる電話の声の中で、何度か繰り返されている初心者ミスの1つがモーメント荷重の件である。ソリッド要素の節点に集中モーメント荷重をかけてソルバーを実行してしまうのである。結果が全てゼロだといって、青ざめた顔(?)で電話をかけてこられる。

図12‒1 ソリッド要素の節点にモーメント荷重は掛けられない

図12‒1 ソリッド要素の節点にモーメント荷重は掛けられない

結論から言って、一般に使用されるソリッド要素は回転自由度を持たないため、直接的なモーメント荷重をソリッド要素の節点にはかけられない。回転自由度の有無は有限要素法を展開する際の極めて基本的な問題である。

要素内の変位(もしくは応力でもいいが)を仮定する方法には2種類ある。1つは節点数を調節して隣接要素間の連続性を考慮するもの、他の1つは1節点での自由度を増やして(高階の微係数を考慮)、連続性を考慮しようとするもの。前者をラグランジュ型、後者をエルミート型と呼んでいる1

図12‒2 2つの補間関数タイプ

図12‒2 2つの補間関数タイプ

エルミート型の場合、数学的にはいくらでも高階の微係数を導入する(したがって、必然的に高次の変位多項式を採用することになる)ことができるが、その微係数の自由度が一体、何の物理量になるのか、また、相当する力が何なのかという問題が残る。それで、このタイプの要素としては1階までの微係数を採用した梁要素、板要素が代表的なものとなる。両者とも1階微係数の自由度が回転角に相当し(厳密に言えば、せん断変形を無視した場合)、したがって、それに対応するモーメントが導入できることになる。逆に言えば、この2種類の要素以外ではエルミート型の要素はあまり普及していないということである。もちろん、研究分野に携わる人たちが使用している要素を除いての話だが。

ところで、回転自由度であるが、この自由度、人為的な操作(工学的な仮定の導入)が入らないと出てこないため、弾性学の基本理論をストレートに展開して誘導されるソリッド要素にはないのである。

梁要素ではベルヌイの仮定、板要素ではキルヒホッフの仮定と呼ばれている平面保持の仮定が導入されて初めて回転という概念が入ってくるのである。回転というからには何か剛体的な変形をイメージするが、平面保持の仮定が採用できる梁要素、板要素だからこそ導入できる概念なのである。

これで、ソリッド要素の構成節点にモーメント荷重を直接載荷できない理由がお分かりいただけたかな。

筆者はモーメント荷重が載荷できないというのに、わざわざ、“直接”と断っている。これは間接的には可能だということを意味している。隣接している節点対象に、モーメントに力学的に等価な偶力に置き換えるとか、仮想的な剛体要素を導入してモーメント荷重を実現するとか、いろいろなテクニックはある。実用的にはこれで充分である。この手段を正当化してくれるものが、前回話したサン-ヴナンの原理である。

2001年7月 記

  1. ただし、ここで言っているのは、有限要素法の中でも一番ポピュラーなタイプである H 法に関してであって、比較的、最近使用されているハイアラーキ要素や P法の場合は節点を増やさない高次関数を採用する方法を導入している。 []

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