FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第2話 薄板要素と厚板要素

前回のテーマであった薄板要素の最大の弱点は面外せん断力が求められないことである。これは当然の帰結であって、板厚方向のせん断変形を無視する理論に立脚しているからである。これが SAP IVのアウトプットに面外せん断力が出力されてなかった理由である。

図2‒1 平板の断面力

図2‒1 平板の断面力

ところで、同じくせん断変形を無視している初等梁理論では、曲げモーメントを求める段階では平面保持の仮定を導入しておきながら、求まった曲げモーメントとの力の釣合いからせん断力を求めるという、矛盾した手法が慣用的に使用されている。この手法を平板に拡張してみることも考えられる。ただし、梁理論では曲げモーメントの変化がせん断力の由来となるが、板理論では曲げモーメントに加えてねじりモーメントの変化も付加されることになる(図2-1)。これにより面外せん断力の精度は、たわみ、曲げモーメントに比較して非常に悪いものとなる。

この面外せん断力の精度の悪さの一面の解釈として、たわみ W、その W の2回微分に相応する曲げモーメントが精度よくても、面外せん断力はさらに微分階数が増えて、精度の保証がないという言い方もできる。

正確な面外せん断力が必要な場合や、せん断変形がもはや無視できないほどの板厚が厚い平板では、もはや、キルヒホッフの板理論は無力となる。せん断変形も考慮した平板理論は1945年、ライスナー(Reissner)によって、中立面とそれに立てた垂線の変形後の直交性を外すことから始まり(図2-2)、その理論は1951年、ミンドリン(Mindlin)によって確立された。よって、これは“Reissner-Mindlin 理論”と呼ばれている。この理論をベースにした有限要素法の板要素は一般に、“ミンドリン板要素(厚板要素)”と呼ばれることが多い。

図2‒2 中立面と垂線の直交性のくずれ

図2‒2 中立面と垂線の直交性のくずれ

有限要素法での板要素の歴史を詳述すれば、そのテーマだけで厚い本が1冊出来上がると言われている。それほど、過去、幾多の研究者たちによって色々な板要素が提案されたのである。1970年代にミンドリン板要素の開発が始まった頃からが特にそうである(現在でも、なお研究されている要素である)。

ところが、このミンドリン板要素の開発初期から既に苦難の歴史が始まるのである。厚板用に開発されたミンドリン板要素ゆえ、適度に板厚があれば正常に振る舞うのは当たり前だが、板厚が薄くなってくると解が硬いままに止まってしまう現象、すなわち、“ロッキング現象”が起こるのである。これだと、実用的な板要素としては使えないことになる。

初期の研究者たちはロッキングを、通常の積分点数を減らした“低減積分法”の適用で避けようとした。ところが、今度は境界条件によってはゼロエネルギーモード(“アワーグラスモード”とも呼び、これについては次の第3話で話す)が発生してしまう。こんな訳で、変位型有限要素法の弱点が露呈し、研究者の中には板要素の開発に変位法を避けて応力分布も仮定するハイブリッド法、混合法といった別の解法に向かった人たちもいた。

ただ、流通している市販の汎用型有限要素法コードは、他の要素との統一性からも変位型の有限要素法が採用されていることがほとんどであり、それらでは、自由度に応力を残す混合法等の板要素が採用されたことはあまりない。

1980年代に入ると、ミンドリン板要素の開発手法に新しいタイプのものが出てきた。面外せん断歪の分布を他の成分とは独立に仮定する“Assumed Shear Strain”要素と呼ばれるものである。この要素の登場でロッキングも解消され、変位法のミンドリン板要素が再び活性化していったのである。

図2‒3 4隅の負反力

図2‒3 4隅の負反力

繰り返すが、キルヒホッフの板要素とミンドリンの板要素の一番の違いは面外せん断力の点である。これを象徴的に知ることになるのが反力を求めた場合である。今、4辺単純支持の正方形板に鉛直下方の分布荷重が満載されたケースを考えてみよう。この問題では板の4隅は上へ跳ね上がろうとする事実が確認されている。すなわち、4隅では負反力が出るのである(図2-3)。

さて、両理論の板要素を使ってこの問題を解いたときの1辺の面外せん断力分布を描くと図2-4のようになる。

図2‒4 平板縁の面外せん断力に対応する反力分布

図2‒4 平板縁の面外せん断力に対応する反力分布

ミンドリン板要素の方の分布は実際の反力分布と一致していて、分布がスムースで自然である。角点の負反力も忠実に反映している。すなわち、反力は板の縁の面外せん断力に対応しているのである。

一方、キルヒホッフ板要素の場合、角点の負反力の説明が全くつかない。角点に集中反力でも持って来ない限り辻褄が合わないことになる。実際、キルヒホッフ理論の場合、単純支持の正方形板では角点のねじりモーメントの2倍(2MXY)の値の集中反力が発生している結果となっている。すなわち、キルヒホッフの板要素の場合、有効せん断力の概念と角点の集中反力を考慮して初めて反力分布の説明がつくものなのである。ただし、この分布はいかにも不自然な分布であるかを知らされる。

2000年2月 記

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読者からの寄せられたコメント

  1. 星野 秀美 より:

    ホームページ開設おめでとうございます。
    いずれゆっくり拝読させていただきます。

  2. 今村純也 より:

    直前に送ったコメントはKirchhoff理論に留めました。Mindlin理論も書いておられたのですね。ロッキングについて書いておられるが、要は非同次解を満たさない要素を用いるからです。(=0も含めるので、偽同次解(偽特殊解)が顕れる要素はダメ、が正しい。あるいは、偽分布反力が顕れる要素はダメ。よって、対策は在る。)
    せん断ロッキング、モーメントロッキング、体積率ロッキングなどの形で顕れます。いずれの導関数であるかにより。
    なお、面外たわみはφでなくせん断たわみwsで表すのが正しい。φはあくまでベクトル場θのポテンシャルです。また、線形(あるいは双1次)の適合θ要素もスタート点に並べれば、Mindlin理論とKirchhoff理論の連続性も説明できます。以上

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