FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第91話 くさび要素のこと

土木構造物を有限要素法解析している場面で、ときおり図1のような日の丸タイプのメッシュを見かけることがある。典型的な例が、地盤を弾性体モデルで近似した場合に、地盤内に打ち込まれたコンクリートの円柱杭をくさび要素(5面体要素)でメッシュ分割したものである-図1は3次元メッシュを平面で眺めた場合である。

図1 蜘蛛の巣型のメッシュ

図1 蜘蛛の巣型のメッシュ

くさび要素には、辺の中間点に節点を持つ、構成節点数が15の2次要素もあるのだが、これを採用するときは、周りの矩形要素も全て2次要素(高次要素)であることが前提となる。地盤解析が主役となる解析では、2次要素の使用も多いのだが、人工構造物の構造解析が主役であり、地盤はその脇役である場合では、操作性の良さから1次要素(低次要素)が使われることがほとんどだと思われる。ここでの話は、構成節点が6節点のくさび要素についての話題に限る。

 

図 2 6節点くさび要素

図 2 6節点くさび要素

一般に、くさび要素の剛性マトリックスを作成する場合、基本式である変位関数の採り方には、下記のように2通りある。

 

■三角形の横断面内に関する変位関数を2次元の平面応力要素などで採用されている面積座標の1次関数と柱体軸方向に採用される一番ポピュラーなセレンディピティ型補間関数を組み合わせる手法

 

これが基本的な手法なので、理論的な記述がなされているFEMの参考書(くさび要素まで記載されている書籍は多くはないが)でよく紹介されている方法である。この場合、横断面内の近似レベルと柱体軸方向の近似レベルが違うことになる。

 

■8節点の6面体要素(HEXA要素)の二辺を縮退させる方法(下図)

図 3 HEXA要素を縮退化したくさび要素

図 3 HEXA要素を縮退化したくさび要素

この場合のくさび要素は擬似HEXA要素として振る舞うわけである。先に記した要素を“純正くさび要素”と呼ぶことにすれば、こちらは“変則くさび要素”とでも呼べばいいだろうか-以下、この名称を使用する。

一般に、図3のように四角系のアイソパラメトリック連続体要素を縮退して三角系の要素を作成することもしばしば行われているが、精度云々は別にして積分点でのヤコビアンが正値である限り数学的には問題はない。

図4 杭断面の歪分布

図4 杭断面の歪分布

 

ここで気になるのが、両者の性能比較である。くさび要素が柱体軸方向のストレッチ問題のモデルで使用されている限り、両者に差があるわけではない。ところが、図4にあるような杭の力学モデルのように曲げ問題でくさび要素が使用される場合、両者に性能差が出てくることになる。というのも、純正くさび要素では三角形の横断面内での歪分布が一定、という弱点を持っているからである。

杭のような棒構造の曲げ問題では周知の梁の力学問題と等価となる。図1にあるような、円中心と円周上の節点間に節点が一つもないメッシュ張りでは、中立軸に関して1次関数模様の歪分布を一定歪要素で近似することになり、これは結構無理がある。

表1を見ていただきたい。本表は、円断面を図1のようにくさび要素でメッシュ分割した単純梁を対象にして、スパン中央に集中荷重を載荷した力学モデルをFEM解析した一例である。表では、梁理論から得られる結果と比較している。

91-a

上表からは一目瞭然、まあまあの変位量の精度に対して、応力値の方は、かなりの差が出ている。純正くさび要素では、横断面内の積分点が一つであるため、図1のようなメッシュ分割では、1要素の頂点の応力値が積分点である要素中心での応力値と同じとなる-別な言い方をすれば、要素内で応力が一定-ゆえの結果なのでる。

この場合、円の半径方向に2要素となるように節点配置-すなわち中心部がくさび要素で円周部にHEXA要素を持つモデル-をすれば、かなりの改善が見られることも追記しておく。ただし、こういうメッシングモデルの場合、たいていは全体的に膨大な要素数になっていることが多く、なるべく要素数の節約をしたいがゆえのメッシュ配置という事情があるはずだ。

 

ついでに断っておくと、表1で記載している梁理論の結果というのは、円形断面を適用した結果ではない。というのは、図1のFEMモデルでは、円断面ではなく、それを近似した八角形断面となっているので、比較を厳密にさせるため、梁断面の断面2次モーメントも八角形断面のそれを採用している。ところが、正多角形断面の断面2次モーメントといっても、どの公式集にも、この断面のそれは掲載されていない。少なくとも、筆者は見たことがない。それで、読者へのサービスとして、筆者が導いたその公式を付録として添付しておくので、将来、必要となった際の参考にしていただければと思う。

2015年2月記

[付録. 任意正多角形断面の断面2次モーメントを求める]

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右図は正八角形の例だが、以下は任意の正多角形断面を対象とする汎用的に利用できる断面2次モーメントの公式を導いておく。

対象断面が正多角形なので、当然回転対称であり、そのことをうまく利用すれば実際に求める必要があるのは、x-y座標面の第1象限にある断面だけである(注)。しかも、そこにある任意の三角形1つのx軸回り断面2次モーメント(以後Ixと称す)を図A-1にある角度θに関して一般的に求めておけば、後は第1象限内に含まれる三角形分の積算をすればいいことになる。
(注)任意の正多角形とは言ったが、正六角形のように1/4円内に単位となる三角形が納まらない正多角形はここでは除外させてもらう。

図A-1 正多角形を構成する三角形

図A-1 正多角形を構成する三角形

といっても、直接χ、y座標を使用してのIXを求めることは困難である。ここは、高校数学で習った下記の平面座標系の座標変換公式を利用するのが得策である。

91-s1

IXの定義式に、式(1)の下式を代入すれば、

91-s2

となり、新座標X、Yでの断面2次モーメントIx等で表現できることになる。なお、最後のIXYはX-Y軸での断面相乗モーメントであり、これは、対象となる三角形が二等辺三角形のためラッキーにもゼロとなる。なんとなれば、X軸が図A-1にあるごとく二等辺三角形の頂角を二等分する線であるため、三角形はX軸に関して対称となるからである。断面が一軸でも対称である場合、相乗モーメントは被積分関数がある変数に関して奇関数であるためゼロとなる。したがって、最終的には下式の通り、新座標X、Yに関する断面2次モーメントが分かればいいことになる。

91-s3

IxIY の求め方に関しては、矩形断面や円断面で断面2次モーメントを求める手法と同様なので、ここでは詳細な式誘導は省かしてもらって、積分計算の補助図と結果だけを記載することにする。

図A-2左がIxの積分用の補助図であり、同図右がIYのそれである。

91-d

 

91-s4

結局、式(3)と式(4)で第一象限にある一つの三角形のχ軸回りの断面2次モーメントが求まり、三角形の数だけ積算すれば第一象限部分の正多角形のそれが求まることになる。そして、その結果を4倍すれば、断面全体のIχが求まるというわけである。すなわち、正4N角形(N≧2)のχ軸回りに関する断面2次モーメントが下の式になる。

91-s5

式(5)を計算するにしても、N=2程度では手計算ということもあるだろうが、それ以上になると、やはり計算プログラムの作成が必要であろう。

 

ここで興味が湧いてくるのが、Nの数値とともに一体どれほど真円の場合の値に近づいていくのか、ということだろう。

図A-3 正多角形と真円の断面定数の比率

図A-3 正多角形と真円の断面定数の比率

図A-3は、正4N角形(Nは1/4円の分割数)のNに対応する、断面積(A)と断面2次モーメント(Ix)の真円のそれぞれに対する比率をグラフ化したものである。

 

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読者からの寄せられたコメント

  1. 伊藤 秀行 より:

    原田先生 お元気ですか。
    毎回見ています。今回、任意の正多角形断面を対象とする汎用的に利用できる断面2次モーメントの公式を計算してみたいのと、公式と代入値を入力すると式を計算するエクセルを作成しましたので活用してみたいです。
    よろしければエクセルを送付してみたいので、先生のメール先を教えてください。
    よろしくお願いいたします。

    • Yoshiaki Harada より:

      なんとか元気にやっていますよ。メールアドレスは、info@femingway.com です。

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