FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第89話 反力のパラドックス

今回は、読者への問から始めたい。次の構造解析の問題を考えてみてほしい。

Q. アウトプットである変形も応力状態も全く同じというのに、載荷状態が異なるという二つのインプットは有りや無しや。

正解は有りです。有りどころか、そんなケースはいくらでも想定できる。有限要素法(以下FEM)問題で考えれば、一番簡単な例は、図-1に掲げた1要素モデルだ。上図は片持ち梁モデルであり、下図は同じく片持ちの平面応力モデルである。

図1 梁と平面応力の1要素モデル

図1 梁と平面応力の1要素モデル

図1内の“=”は、左側の載荷状態と右側のそれが、異なっているのにもかかわらず、それらによる変位と応力が同じになることを言っている。一見不思議なことのように思えるが、種明かしをすれば、右側モデルの節点荷重は、左側の辺載荷の等価節点荷重となっているのである。

離散系の解析シミレーションであるFEMは、最終的には各節点での力の平衡方程式を組み立てることになるので、図1左のように辺載荷の外力は、関連節点へ分配した換算力に変換されることになる。FEMの世界では、この換算された節点力を“等価節点力”という。問題は、その換算方法だが、平面応力問題のように、節点自由度に回転自由度を持たない場合では、厳格な方法でなくても、各節点の支配(影響)面積の考えで直感的に換算外力を求めることはできるだろう。図1下の場合、全荷重の半分を受け持つ考えで容易に理解できる。この手法は、昔からよく利用されていたはずだ。

梁問題では、そう単純ではない。図1上の場合でも、梁端部の外力モーメントの8という数字がどこから出てくるのか不思議に思う人もいることだろう。さすがに、回転自由度含む要素や、辺の中間に節点を持つ高次要素では、直感的には等価節点力を求めることは困難で理論式に拠ることになるであろう。その式とは、本エッセイ第70話内の式(18)右辺のことなのである。ここで再記してみる。

89-01

図1上の梁の問題に式(1)を適用する場合、Nには1次元要素のエルミート型補間関数を採用し、積分も面積分から線積分に切り替えればいいのだが、荷重の関数 の扱いにちょっと戸惑うことになる。皮肉なことなのだが、FEMは離散系の解析手法というのに、式(1)のような積分は、荷重状態が連続系であることの方が都合いいことになる。荷重が節点以外の場所に離散的に配置されると、「どうすればいいの」ということになるのだが、ご心配なく。こういうときに、本エッセイの第21話で紹介した“ディラックのδ関数”の考えが役に立つのである。早速、式(1)に適用すると、次の通りになる。

89-01a

89-02

式(2)の最終マトリックスにある第3項、第4項が図1右上にある等価節点力に相当するものだ。謎の数字8の由来もここにあったのだ。

89-a

余談となるが、ビーム要素の中間部に掛かる荷重の等価節点力というのは、実は中間部に載荷された両端固定梁の端せん力、端モーメントの値になっているのである。それで、昔のFEMソルバーの中には、梁の中間荷重を入力させる機能が無いものもあって、その場合、直接両端固定梁の端せん力、端モーメントを指定させたものである。

 

閑話休題。FEMソルバーでは、図1左のように、いかに要素の辺、面に載荷する指定をしても、結局は内部で等価節点力に置き換えて計算を実行するものだから、最初から節点力を設定して解析した結果と同じというわけである。このことを少し確かめてみよう。
さすがに図1下にある平面応力問題のような連続体要素の場合は、たとえ1要素であってもお手元にあるソルバーを実行した方がいいだろうが、梁問題では、手計算で確かめられる。片持ち梁では、大層にFEMに出動願わなくても、構造力学の公式集にある式を引用すれば事済む。ここでは、梁先端の撓みの値を見ることにしよう。梁先端に集中荷重Fとモーメント荷重Mが掛かる梁先端の撓みの式はそれぞれ下のとおりである(EI:曲げ剛性)。

89-03

89-04

そして、式(3)のFにP/2を代入し、式(4)のMに-PL/8を代入して、両式を加算してみれば、

89-b

となる。

このたわみ量は、まさに図1左にあるように梁中央部に集中荷重Pが作用する梁先端の撓み量であることが、やはり公式集から見て取れる。

 

さて、以上で荷重を節点荷重として直接FEMソルバーに与えても、辺分布荷重(辺載荷の集中荷重も含めて)として与えても、結果の変位、応力は同じであることを述べてきた。ところが、最後に相違する点が一つあることを白状しないわけにはいかない。それは反力のことである。

もう一度、図1の片持ち梁モデルを見ていただきい。左図の場合、左端固定部に発生する鉛直反力は明らかにPである。右図の場合は、P/2となるはず。これは、同じく図1の平面応力モデルでも、総鉛直反力が、それぞれqLとqL/2であって、両者に違いが出てくる。これは、一体どういうことなのだろうか。変位、応力が全く同じなのに反力が一致しない理由をどこに求めるのだろうか。もちろん、どちらの解析も正しいのででる。

種明かしすれば、分布荷重が載荷された要素の辺上節点に拘束条件が設定されていることにある。式(2)が表すビーム要素の等価節点力はもちろん左右両端のものである。上2項が左端のものだが、このモデルの場合、左端は拘束点になっている。節点荷重入力の場合、拘束点に荷重を作用させても意味がないので、初めからそれらの荷重はカットされていることになるのである。

一方、要素辺の分布荷重で載荷指定された場合、FEMソルバーは、反力処理では、節点変位から寄与される等価節点力に加えて、分布荷重から由来する等価節点力も考慮することになる。この後者の相当分が、直接節点荷重入力方法の場合との違いとなって現れてくることになるのである。それで、図1下のように、構成節点が支点となるような要素に等分布荷重が載っかっている場合、自分で換算荷重を計算して節点荷重を直接指定したとき、要素長の半分に相当する荷重分だけ総反力値と差異を持つことになるのである。

もっとも、支点となる節点に相当する換算荷重をその節点に掛けてしまえば、という考えも出てくるだろうが、通常のFEMソルバーでは、支点処理の段階で、その荷重は無視されることになるだろう。

2014年1月記

Advertisement

コメントを残す

ページ上部へ