FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第81話 片持ち梁を話の肴にして・その4

本シリーズ初回でチモシェンコ/ギア執筆の“材料力学本論”のことを紹介した。しかし、筆者が学生時代、構造力学の講義で使用していた教科書はチモシェンコの本ではなかったので、今まで気づかなかったのだが、過日、この本のページをペラペラとめくっていると、面白い演習問題を見つけた。その問題の構造は、片持ち梁の自由端にブラケットを取り付けた下図のようなものだ。

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問題の方は、ブラケットの先端Cに鉛直集中荷重を掛けたとき、点Bのたわみがゼロになるようなa/Lの比を求めるものだ。一瞬、「エッ」と思うような問題だが、点Bでの断面力がわかればなんでもない。それは、鉛直下方の力Pと反時計回りのモーメントaPである。

後は、片持ち梁ABの変形問題だけを考えれば解決するが、たわみを求める正攻法のアプローチは、曲げ変形の微分方程式を直接積分していく方法だろうか。第二案は、公式集を利用して、先端に集中荷重が掛かる片持ち梁モデルとモーメント荷重が掛かる同モデルの両結果を重ねあわせる方法となるか。

ここでは、さらに別案を紹介してみる。この問題のような集中荷重(モーメント荷重も含めて)だけのように荷重条件が離散的である構造解析では、有限要素法の基本中の基本である要素剛性マトリクスを利用するのが便利である。しかも、あっけなく簡単に解決してしまうのである。

それでは、やってみよう。本シリーズ2回目に出てきた梁の剛性方程式に再度登場願う。ただし、ここでは、全て基本座標系で済ませることができるので、もはやバー付きはない。なお、荷重項ベクトルを意味する記号Pは、後に方向荷重単独でPを使用するため、それとの区別する意味でFに替えてある。すなわち、Ft=[PM]である( Mはモーメント荷重)。

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片持ち梁を扱うときは、便利なことに常に固定端Aでの境界条件UA=0が使える。それで、式(1)の第2式を取り出せば、次の通りとなる。

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ここから先は、シンボリックに表現してきたマトリックスの具体的中身が必要になってくる。平面梁の剛性マトリクス(6×6)はどの有限要素法の教科書にも掲載されているはずだ。それを思い出していただきたい。しかも、焦点が梁の曲げ問題では、節点自由度が鉛直たわみとたわみ角だけなので、さらに小さい4×4の剛性マトリクスで済む。それは下の式である。

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式(2)のKBBは式(3)のマトリックスの右下4項(3,4行、3,4列)に相当し、右辺荷重ベクトルに値を代入すれば、

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となる。なお、荷重方向の正負は有限要素法の方式に則っている。

 

式(4)は右辺を既知項とする2元連立方程式だから、簡単に解けるはず。実際、B端のたわみVBについて解いてみて、それをゼロにするaを求めれば、問題の解が出てくる。

構造設計の現場におられるエンジニアの多くが、梁問題の構造解析の必要に迫られた場合、学生時代に学習したテクニックを使用して解決させる、というようなことはほとんどないと推測するが、どうだろうか。たいていは、公式集に一直線に手が伸びる解決法ではないだろうか。手元に公式集がなかったり、あっても掲載されていない問題であれば、パソコン上の手軽な構造解析ソルバーを走らせて解決というところではないだろうか。

しかし、上のような問題の場合、FEMソルバー利用のようなコンピュータシミュレーションでは、何回か計算を繰り返す必要があり、少々面倒である。一挙に解決させるには、やはり解析的手法が勝る。こんな時、式(3)のマトリックスさえ、どこかにメモしておけば、両端固定梁、連続梁のような不静定梁にも応用ができて便利である。

 

ついでだから、ここで、集中荷重が掛かる両端固定梁の問題(ここでは、簡単のためスパン中央に載荷の問題が対象)に適用したモデルを紹介してみる。

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この問題の場合、式(1)でまず気付くのが、1要素では、両端が固定のため、UA=UB=0となって、未知変数が全く無くなり不都合なことである。そこで、載荷点に節点を取り、2要素モデルにしてみる。この2要素に対して、式(1)を考えると、

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両端固定の条件UA=UC=0を考慮して、式(5a)の第二式と式(5b)の第一式をそれぞれ抜き出すと、次の式となる。

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載荷点Bでの力の釣り合いを考えると、

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となるが、式(7)に式(3)にある具体的なマトリックス要素を代入してみると、都合のいいことに非対角項が消えてしまうことが分かる。なお、式(3)にあるLは要素長であり、梁全体のスパン長の半分であることに注意すること。

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上式から、公式集にもある値と同じ載荷点Bのたわみが容易に求まる。当然たわみ角がゼロであることも示している。

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ここで示したようなアプローチが、構造解析の方法にコンピューターが利用されだした時期に、”マトリックス構造力学”と呼ばれたものである。もっとも実務計算では、有限要素法同様、コンピューターの利用を前提としたものであるが、単純な問題では、ここで示したように手計算でも出来るものである。ただし、この方法で、材料力学の守備範囲の問題を解決しようとする場合、次の二つの課題点があることに注意していただきたい。

  • 上で見てきたように、必ずどこかで逆マトリックスが出てくる。式(8)のようなケースはまれであり、通常は逆マトリックスを求めることが要求される(実際には連立方程式の解式になるが)。これを手計算で処理するにはせいぜい3元までだろうから、未知変数の多い不静定梁の問題では、不適かと思う。
  • 分布荷重が存在する場合でも可能は可能なのだが、右辺の荷重ベクトルに追加項が必要となる。分布荷重から節点での等価な荷重に置き換える、いわゆる等価節点荷重ベクトルが必要となる。こちらは、剛性マトリクスが常に同型のものが使えるのに対して、荷重タイプによりベクトルの中身が違ってくる。これが、手計算処理ではやや鬱陶しい存在となる。

2012年12月記

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