FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第80話 片持ち梁を話の肴にして・その3

図1 斜め強制変位の片持ち梁

図1 斜め強制変位の片持ち梁

前々回、前回と片持ち梁先端に斜め集中荷重が掛かる問題を考えてきたが、今回は、同じ斜め方向の問題だが、強制変位の場合を考えてみる。

上図のように、梁先端部を斜め方向に変位量δが強制的に規定されるとする。荷重の場合、基本座標系x-yの各成分方向に分解して考えたのだから、規定変位もそうすれば、と思っている読者がおられたら、とんでもない間違いであることを思い知らされる。こういう問題は、材料力学の教科書ではなかなか掲載されていない。たまに強制変位の問題があっても、地盤沈下による支点部の強制変位の問題で、すべて基本座標系で扱える問題である。したがって、斜め方向の強制変位問題では、意外と間違う方もおられる。

図2 強制変位の分解(間違い)

図2 強制変位の分解(間違い)

結論から言ってしまえば、規定変位の方向を座標軸のどれかに一致させる局所座標系を設けて、その座標系を参照した規定変位を指定する必要がある。図1でいえば、 軸方向の規定変位δと指定するわけである。これを、図2のように、ベクトル分解して規定変位を指定してしまうと、間違った結果を招くことになる。

この荷重と変位の違いを、前回のように剛性マトリクスを使って数式説明することも可能なのだが、規定変位の場合、荷重と違って、平衡方程式の左辺にある未知変数ベクトルに絡むため、剛性マトリクスの細部に渡って分割する羽目になってしまう。それを展開していくことは、読者の皆さんには退屈極まることになると思うので、それは止めておく。以下、言葉で以て説明していきたいと思う。

それには、まず平面梁の問題では、各位置の動きが水平/垂直両方向の並進変位と面内回転角に相当するたわみ角の3つであり、有限要素法的には節点自由度が [u v β] の3つであることを確認してほしい。さらに、片持ち梁先端に設けた局所座標系での自由度が [u v β] であることも確認いただきたい。

さて、荷重を掛けた場合は、自由度 [u v β] あるいは [u v β] の動きは全てフリーの問題であるのに対して、図1の強制変位の場合、 軸方向の変位をδに規定する問題であることを認識する必要がある。この時、フリーな自由度はvとβの二つである。一方、規定変位を基本座標系での成分分解した場合はどうなるかといえば、u,vの2方向の変位を規定することになり、フリーな自由度がβの一つという問題となってしまう。この事実は、あきらかに両者のアプローチに違いがあることを物語っている。

荷重の場合と強制変位の場合との違いを数理的な表現で端的に言えば、下の平衡方程式の模式図を参照してもらって、次にようになる。

80-a

右辺にある荷重ベクトルでは、その規定項(荷重)がある行のみに影響するが、左辺にある変位ベクトルでの変位規定項(強制変位)は、その行のみならず、その項が掛かる列にも影響与える。

 

ところで、手元にFEMソルバーをお持ちの読者は、一度、構造設計で使用される部材諸元を適用して図1のような問題に実行されてはいかがだろうか。結果の変位図を見れば、一瞬、目を疑うかもしれない。例えば、斜角θを45度で計算してみても、変形後の先端位置がとてもその方向に変形したように見えないことを発見すると想像する。これは、いかに横方向(強制変位方向に対して)自由度がフリーといっても、棒軸方向の抵抗を受けるからです。一般に、実際的な梁部材の剛性の値は、曲げ剛性に対して軸方向剛性が圧倒的に大きいため、斜め方向強制変位を受けても、一見ほとんど鉛直方向へのたわみ変形の様相を示すからである。もちろん、元位置の梁先端からの変位ベクトルの強制変位方向への成分をみれば、強制変位の値δに一致している。

この様子は、川の流れを横切って対岸にまっすぐ進もうとしている舟が、川の流れに押されて対岸正面の位置からやや下流側の所に着岸する現象に似ていなくもない(図3)。

図3 川を横切る舟

図3 川を横切る舟

斜め方向に強制変位δを指定するということは、何も梁先端を局所座標軸 でのδの位置にポジショニングするわけではないことを認識する必要がある。もし、その位置にポジショニングするという強制変位であるならば、それこそ、上で駄目宣言した基本座標系成分へ分解した強制変位を指定することになってしう。

 

[追記]

標準的な材料力学の教科書では、強制変位のことがほとんど扱われていないゆえか、以前、変位量は解析のアウトプットで出てくる物理量で、インプットデータにもなりうることに違和感を持っているFEMユーザーに出くわしたことがある。

これは、材料力学も含む弾性力学の問題が、全て境界条件を付帯する微分方程式の境界値問題であることを忘れていることにあると推測する。材料力学でのインプットデータである荷重も実は弾性力学的に言えば境界値問題での境界条件の一種なのである。弾性力学、特に弾性体の静力学現象を表現する微分方程式の境界条件は、力(あるいは応力)で規定する境界部分と変位で規定する境界部分の2種類ある。

2012年11月記

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