FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第79話 片持ち梁を話の肴にして・その2

前回の終わりで、通常のFEMソルバーを利用するとき、(前回の)図1のような斜め集中荷重の載荷の場合、その荷重を鉛直、水平方向の両成分にベクトル分解して考えてもいいと言った。今回、この荷重ベクトル分解の正当性を、下図のような片持ち梁の場合の一例で解説しておこう。

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解説には、梁要素1要素あれば事足りる。まず、記号の意味を説明しておくと、Aは要素左端の固定端を、Bは同じく右端の自由端を意味する。上付きバーは、基本座標系x-yとは別にB端に設けた荷重方向を第一軸とする、局所座標系 xyで参照していることを意味する。すると、梁の剛性方程式は次のように表現できる。

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上式の左辺にある剛性マトリックスは、(6×6)の平面梁のそれでだから、その具体的な中身については、どのFEM参考書にも掲載されているはずである。それゆえ、ここでは具体的記載を省かさせてもらう。右辺は節点力ベクトルで、 RAはA端での反力ベクトルを、 PはB端での外力ベクトルを意味する。なお、通常の剛性マトリックス表現と違って、上付きバーがあるのは、B端で局所座標系を参照にした剛性表現していることを意味している。これは、B端での自由度が x軸方向変位、 y軸方向変位とたわみ角(これだけは基本座標系参照と同じ)で表され、対応する節点力成分方向も同じとなり、荷重の成分分解ができるのかどうか悩まされず、直接に設定できることになる。

 

次に、A端の固定条件UA =0を利用して、式(1)を分解して表現すると、

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となり、上の二式を再度組み合わせると、A端の反力が次式のように表現できることが分かる。

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さて、ここでバー付きの剛性(局所座標系 xy 参照)とバー無しの剛性(基本座標系 x-y 参照)との関係を考えてみる。それにはまず、両座標系で参照した変位成分間の関係を表す座標変換マトリックスが必要となる。それは高校数学からお馴染みの次の関係式の中に出ている。

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上の関係式を端点Bでの変位に適用し、かつ座標変換マトリックスを記号Tで表現すると、式(5)のようになる。なお、βはたわみ角を意味し、この量は両座標系で共通であるので、座標変換マトリックスの3行、3列が上のような表現となる。

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次に、座標変換マトリックスTを使った梁要素の両座標系間の剛性マトリックスの変換関係式は次の通りである(本エッセイ第38話参照)。

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上式中、Eは単位マトリックスを意味するが、これはA端では局所座標系が使用されていないための導入である。この関係式から、次の関係式があることが理解できまる。

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式(7)を式(3)に代入すると、

式(8)では、Pを除いてバー符号が消えている。最後のマトリックス積 TP は何を意味するかといえば、局所座標系で定義した荷重Pを基本座標系に座標変換していることを意味している。具体的いえば、局所座標系で[P 0 0]tと定義した荷重ベクトルが、基本座標系参照の [P cosθ Psinθ 0]tに変換されていることである。ということは、式(8)は、その前にあるマトリックスが基本座標系参照のものであるため、わざわざ斜め方向荷重を設定するのに局所座標系を用意する必要はなく、最初に荷重を基本座標系での方向に成分分解しておけばいいということを意味しているのである。

ここでは、荷重をベクトル分解して入力できることの解説を、片持ち梁固定端の反力を誘導する形で議論を展開してきたに過ぎないが、このことは、材料力学や弾性力学全般にいえることを念のため言っておく。

2012年10月記

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