FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第73話 追記 – コンター図エレジー

前回、応力コンター図表示で必須となる節点位置での平均化処理の問題点として具体例を3例ほど挙げたが、後でもう一つ大事な場面があるのを忘れていたことに気づき、ここで改めて追記することにさせてもらう。

 

3次元構造物の解析では、FEM構造モデルの中で、ソリッド要素とプレート/シェル要素を含んだ複合構造解析モデルがよく使われている(説明の都合上、ここではこの両要素タイプが使われているモデルをSPモデルと称す)。このとき、節点自由度数の違う両要素タイプの接合方法が問題となるだが、この問題はモデリング時での一つの課題点でもあり、また応力評価のポスト処理でも問題を残すことになる。ここでは、後者がテーマであるので、このことに集中したい。

おそらくプレゼン資料だと思うが、SPモデルに対してよく全景で応力コンター図を描いているものを見かけることがある。描画図にはソリッド要素もプレート/シェル要素も含まれている。しかし、これのほとんどが嘘(両要素の接合部で)を言っていると思わなければならない。

改めて言うまでもないが、ソリッド要素とプレート/シェル要素の接合節点は、後者が肉厚中心面でもって表現化(モデル化)されるので、当然両要素の接合節点の位置はプレート/シェル要素の肉厚中心位置となる(下図参照)。

73-a

ところで、われわれは、応力評価する際、構造物の表面でのそれに関心を持つことになる。プレート/シェル要素側で言えば、曲げ応力を含んだ応力評価に関心があるわけだ(膜構造系のようなメンブレン要素の使用を除いて)。それで、SPモデルでコンター図を描くとどうなるかといえば、接合点での平均化の際、ソリッド要素側の応力値は接合節点位置でのそれであるのに対して、プレート/シェル要素側からは接合節点位置から肉厚の半分ずれた位置の応力値を持ってくることになり、違った位置同士の値を平均化処理していることになるわけだ。

それでは、プレート/シェル要素の肉厚中心面(すなわちモデル面)上の応力とソリッド要素の応力の平均化処理は妥当なのかといえば、さにあらずだ。この理由を説明する手っ取り早い解説は次の通りである。

そもそも、プレート/シェル要素の定式化理論の出発点に断面剛の仮定がある。すなわち、梁要素も含んでこれらの構造要素の断面は変形に際して、剛体的に回転するという大仮定が採られているのである(本エッセイ、第1話参照)。したがって、ソリッド要素とプレート/シェル要素間の応力を平均するというのは、片やなんの仮定も導入されていない応力値と片や大きな仮定が入った応力値を対象とすることになり、整合性の取れない計算になってしまうのである。

上述の点は、別の観点からも説明できる。平均化処理に際して、ソリッド要素側からは応力6成分全てが俎上にのる。一方、プレート/シェル要素側からは、もし、その要素が薄板理論から作成された要素(キルヒホッフ要素)であればたかだか3成分、もし厚板理論から作成された要素(ミンドリン要素)であっても応力5成分しか俎上にのらないのである。

SPモデルでの応力コンター図では、通常、主応力や相当応力が表示されることがほとんどだ。これらの計算には、応力6成分の存在(仮にある成分値が0であっても)が必須である。このことを少し具体例で示す。次の図を見てほしい。

73-b

この図は先の図同様、左側にソリッド要素を持ち、右側にプレート/シェル要素を配した構造モデルのある接合節点位置付近の微小部分を切り出し、かつX-Y平面で眺めた図である。

接続点における応力成分のうち鉛直方向応力σyは、左のソリッド要素では当然存在するのに対して、右側のプレート/シェル要素では存在しない。結果的に値が0という訳でなく、そもそもプレート/シェル要素ではσyの存在が最初から無視されているのである。それゆえ、接続点で平均化されると、前回の第72話で断崖絶壁位置での等高線を求める話をしたが、それと同じようなことになってしまうわけだ1

ここで、一つ補足記述しておく必要がある。この図では、煩雑さを避けるため、わざとせん断応力の表示を省いている。省くと言っても、正確に言えば、それはソリッド要素側だけでのことで、プレート/シェル要素側では事情がやや複雑となる。もしミンドリン要素が使われていれば、ソリッド要素と同じだが、もしキルヒホッフ要素が使われていれば、せん断応力(面外)の存在は無視されていて、もともとせん断応力も存在しない。

そもそも違うタイプの要素どうしの接合点というのは一種の不連続部である。その不連続部で連続分布する応力表示するということに無理があるわけなのである。

2010年11月記

  1. このことは、何もソリッド要素とプレート/シェル要素の組み合わせだけでなく、直角に交差するプレート/シェル要素どうしの場合にも言える。 []

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