FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第71話 ついでに、こんな話をどうぞ

前回の話の展開で、ガウスの発散定理(下式)が、有限要素法(FEM)の基本式の誘導で重要な鍵になっていること分かっていただけたろうか。

式(1)内のベクトルを成分表示で表現すれば、

71-a

実は発散定理には、ベクトルAの定義空間Vを囲む閉曲面Sがなめらかであるという数学的制約が課せられているのである。換言すれば、閉曲面Sでは、右辺項の積分が定義できる必要があるわけである。鋭く折れ曲がるような不連続領域があってはいけないことになる。

71-b

しかし、実際の構造物の表面が全てなめらかなんていうことはほとんどない。構造形状においては角点が存在するという表面領域そのものの不連続性が、一方、変位を点拘束したり、荷重でも集中荷重があるといった境界条件での不連続性もある。

数学的な厳密性について語る能力を筆者は持ち合わせていないので、上の課題があるにもかかわらず、FEM解析の性能がおおむね良好という理由を知らない。ただ、確実に言えることは、集中荷重の載荷点直下や構造角点のような不連続点(応力場の特異点)での応力を追跡することが不可能であることの理由の所以がここにあると想像できることである。

 

ここからは、数理雑談である。せっかくガウスの発散定理が出てきたので、少し、発散定理の余談をしてみたい。

流体力学の言葉を借りれば、発散定理の意味はよく理解できると思う。ここに出てくるベクトルAを速度ベクトルと見なせば、式(1)の右辺は閉曲面表面から出ていく水量となる。今、divAが定数量と考えると、式(1)は次のように変形できる。

式(3)の意味するところは、単位体積のボリュームから出ていく水量がdivAであることである。流体力学では“(単位体積当たりの)湧きだし”と呼ばれるものである。地下水の浸透流解析分野でよく出てくる物理量である。

71-c

divAの意味が分かれば、式(1)の発散定理の理解は容易である。ある閉内領域内で湧き出た水量は、その閉内領内を出ていく水量に等しいという、ごく当たり前のことをエレガントに言っているだけなのである。

筆者は、この定理に出くわすたびに、ホースの先から飛び出した水のことをイメージしてしまう。飛び出した水量が、周辺に飛び散る飛沫の速度ベクトルの仮想球表面の法線方向成分を球面全体で集成した量に等しいことを発散定理が言っているわけである。

しかし、物理分野での発散で一番有名なのは、何と言ってもマクスウェルの方程式の中の一つである、次の式であろう。

Bは磁束密度であり、式(4)は磁場には湧きだしは無いということを物語っているものだ。すなわち、磁場では電場と違って、N極またはS極単独のモノポールはこの世には存在しないことを言っているのだ。昔、あの異能の天才児ディラックが予言したという、モノポールの存在(divB≠0)を発見すれば、間違いなくノーベル賞を貰えるであろう。

物理を離れて、純数学的に考えても発散定理は意外な応用面がある。それは、3次元の体積分から2次元の面積分への次元落としが大きく関係する。今、ベクトルAを次のように、方向が位置ベクトルに一致し、大きさがその1/3であるベクトルを考えるとする。

すると、式(1)の左辺は、dVとなって、これは、閉曲面が占めるボリュームの体積を表すことになる。すなわち、任意のソリッド構造の体積を求めるには、次の式で示す表面の面積分を実行ですむというわけである。

ソリッド構造の表面上にある位置ベクトルとその点での法線ベクトルの内積計算の集計で体積が求まるということは、構造物表面だけのFEMメッシュでもって、複雑な形状を持つ構造物の体積も、近似的に求まることになる。FEMメッシュをパッチに置き換えれば、3次元CADソフトでの体積計算のアルゴリズムの一つとなる。

71-f

発散定理のこの応用は、2次元になると、がぜん身近で興味深い問題となってくる。池の面積が池の周辺を歩くだけで求まるというのもその一つだ。もちろん、ただ歩くだけではなくて、歩測しながらの計測作業は伴いまが。

ベクトル解析では “ストークスの定理”という有名な定理がある。この定理から2次元版のガウスの発散定理とも言うべき定理が出てくる。それが下の式である。

式(5)中のCは面領域Sの周境界を意味し、その積分はSの内部を左に見ながら1周する線積分である。

ここで、71-j とすると、式(5)は次のようになる。

この式の左辺はSの面積そのものだ。したがって、右辺の線積分を実行すれば面積が求まるわけである。池の面積の場合、下図にあるように周囲の線積分は、適当にスタート位置を原点に据えた(x,y)座標系を想定してから、左周りに、直線と見なせる区間(i,i+1)ごとに、歩測で2点間の距離を計測することになる。このとき、直線区間の終点位置の位置ベクトルが 座標軸となす角度を何らかの方法で知る必要があることを言っておく。

71-h

後は、池の周囲を1周して直線区間の連続で覆いつくせばいいわけである。集計計算には式(6)を変形した次の式を利用するのが便利と思う。

 

2010年1月記

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