FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第66話 MFC機能について

まず、図66-1を見ていただきたい。この図は左右から伸びた2つの片持ち梁が、一部で重なる構造モデルを示している。

図66-1 一部で重なる二つの片持ち梁

図66-1 一部で重なる二つの片持ち梁

ここで、梁Rの先端節点3と梁Lの中間位置節点1が重なったままの弾性解析を行うとする。すなわち、節点1と節点3のたわみが同一であると課する問題である。なお、節点2と節点4の動きはお互い干渉せず自由とする。節点4には鉛直荷重が掛かっている。

この力学問題はどう対処すればいいだろうか。もちろん、図66-1の状態のままで解析しては何もならない。そんなことをすると、たいていのFEMソルバーでは、梁Lの状態は原状のままで、節点3、4の変形後位置が梁Lを突き抜けた変形状態を示す結果を示すであろう。

また、節点1と節点3を同一節点とする手段を考える人もいるかもしれないが、これも間違いである。重なっている状態というのは剛節されている意味ではない。

前回の話で出てきた“タイイング”機能を使用すればどうだろうか。しかし、これも駄目である。節点1、3のどちらを主節点にしようが、従属節点側のたわみ角量が主節点のそれと同一になり、これでは、節点1と節点3を同一節点とするのと同じことである。

図66-2 リンク要素

図66-2 リンク要素

この問題の要点は、節点1、3のたわみ量は同じだが、回転量はお互い独立に挙動するという力学問題である。それでは、解決策にどんな方法があるかと言えば、今回のメインテーマである数学的手段は後回しにして、最初に一つ工学的手段を紹介しよう。読者が使用されているFEMソルバーの機能に用意されていればの話だが、長さ0のばね要素を使うのである。ここでは、この要素を“リンク要素”と名付けておく。節点1、3の間にリンク要素を挿入するのである(図66-2)。そして、このリンク要素の鉛直方向のばね定数を両梁要素の剛性よりも充分大きくした値に設定すればよいのである。水平方向に関しては、線形問題を対象とする本問題では意味がないので無視すればよい。また、リンク要素には回転剛性はないものとする。

 

次に、数学的手段を紹介するが、その前に本問題の有効自由度に関して述べておく。ここでは微小変形を対象とする線形問題を扱っているので、図66-1での荷重条件では、全節点で水平変位は出現しない。それで、本構造全系の有効自由度は節点1~4に関する鉛直方向の変位(すなわち、たわみV)と回転角(すなわち、たわみ角θ)だけである。それで、全系の平衡方程式を書き下してみると、下のように8×8の連立方程式となる。

66-a

数学的手段というのは、上の連立方程式にv1=v3という条件を挿入する方法である。元々、変数が8で方程式数が8という一意に解ける連立方程式の中に、変数を一つ減らす関係式を導入することになるので、新たに解式の対象となる連立方程式は7×7となる。

この方式の展開を上の式で解説すれば非常に煩雑となるし、一般論で展開すると難しくなってしまうので、ここでは、別の式で置き換えて説明することにする。理解しやすいように、下式のような3×3の連立方程式を材料にする。ただし、剛性マトリックスが対称という、一番ポピュラーなケースを考えるので、下の係数マトリックスも対称としている。

66-b

いま、x1=x2という条件を式(1)に代入してみる。すると、容易に分かることだが、次式のようになる。

66-c

式(2)の1列目を見れば、この段階では係数マトリックスの1行、1列を捨てて、残りの2×2の連立方程式を解けばいいことが分かる。数学的には、たしかにそうなのだが、実はFEMプログラム上、重大問題にぶつかっている。2行3列目の要素と3行2列目の要素に差異が出たため、2×2の係数マトリックスが非対称マトリックスとなってしまっている。

一般に標準的なFEMソルバーでは、剛性マトリックスが対称であることを前提として組まれていることが多い。そのため、式(2)のように係数マトリックスが非対称になってしまっては解けなくなってしまうのである。

そこで、線形代数の性質を利用して、式(2)の第1式を第2式に加算して、新たな第2式とする。

66-d

これで、式(3)の2行目、3行目からなる2×2の係数マトリックスが対称となり万々歳である。

このように変数1個ごとの関係式を元の連立方程式に挿入することは、FEMで言えば、自由度ごとの関係式を元の剛性マトリックスに課する(一種の拘束)ことになるので、これを“多自由度拘束(Multi Freedom Constraints)”と呼んでいる。略してMFCと呼ぶ。多自由度というのは、上の例では、1自由度間の関係式であったが、複数の自由度間での関係式が扱えるからである。例えば、

66-e

などが扱える。

 

一般的に言えば、MFCは次の線形関係式の形であれば導入することができる(もっと一般的には、右辺が非零の場合も考えられる)。

66-f

この関係式は何も一つとは限らず、複数式導入できるが、MFCにもやはり制約がある。元の連立方程式が線形方程式だから、導入できる関係式も線形関係式の枠を外れてはいけない。ある自由度が他の自由度と2次式の関係にしたいなんてことはもちろんできない。さらに、線形関係式だったら何でもいいというわけではない。当該自由度間の関係が力学的挙動に矛盾をきたすような関係式であってはいけないことは言うまでもない。

最後に。参考書によっては、MFCのことをMPC(Multi Point Constraints;多点拘束)と呼んでいるものがあるが、これは不適切のように思う。細かいようだが、MPC(多点拘束)では、いかにも節点間の関係式のイメージであり、節点が持つ自由度一つひとつに対しての関係式でないように感じる。前回の話で登場した“タイイング”がMPCでの特殊機能と呼ぶにふさわしい。

2009年梅雨の候記

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