FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第116話 ちょっと考える、ごく簡単な問題

しばらく難しい話題が続いたので、一休みの意味を兼ねて今回は簡単な話題としたい。ここで読者にクイズ問題のような、ごく簡単な力学問題を提供するが、これは、私が最近ある仕事をやっていて出くわした局面の話題から拾ってきたものだ。最初、ちょっと考えてしまうのではないだろうか。

 

材料力学の教科書で出てくる問題の中でも最も簡単な問題が、図1にある単柱の頭に荷重が掛かる柱の伸縮問題であろう。話の展開上必要となるので、柱の中間点で上部と下部の二つに分けた名称を、それぞれAとBとしておく。なお、単柱の引張を対象としても圧縮を対象としても、問題の本質に変わりがないので、ここでは一応、柱頭に圧力荷重が作用する圧縮問題を対象とする。もちろん、座屈などという難しい力学現象を考慮しなくてもいい範囲の問題である。

図1 圧縮単柱のモデルと変形モード

図1 圧縮単柱のモデルと変形モード

圧縮力を受ける単柱の問題は、何も材料力学の知識を持ち出さなくても、高校時代の物理の教科書のどこかに出ていたような説明するまでもない簡単な問題である。柱が圧縮されるため、柱頭の位置がわずかの量下がることは説明するまでもないことであろう。ここの話では、その絶対量の数値が必要ではないので、仮に縮量をΔLとしておく。柱の下端が固定されているので、当然、この位置の変形量はゼロだから、この単柱の変形モードが図1右のようになることに異論はでないであろう。それで、AとBの境目、すなわち柱の中間位置での変形量は柱頭での値の半分であることも容易に理解できることである。

図2 上半分に対の圧縮力が掛かる単柱

図2 上半分に対の圧縮力が掛かる単柱

さて、考えてもらいたい問題のことである。柱頭に掛かっている荷重と同じ大きさの値で、方向が反対の上向荷重が柱の中間点に掛けられたとしたら(図2)、結果はどうなるであろうか?柱の中間にそんな荷重が掛けられるのか、という野暮な質問は無しである。ここでは、あくまでも机上の数理問題を相手にしているのである。

この問題をFEM トラス要素の剛性マトリックスを持ってきて全体剛性マトリックスを組み立てれば、1 拘束点の3 節点モデルとなるので、最終的には、2 自由度の剛性方程式を解くことになり、手計算で簡単に求まってしまう。実際、最後にその手続を付記するつもりだが、それでは、味も素っ気もない。こんな簡単な問題、数理解析の登場を願わなくても、言葉で説明できるはずである。

この問題を考える準備として、まず柱に限らず棒材の両端に圧縮力が掛かる場合の変形モードにどんなものがあるのかを考えてみよう。容易にイメージできることだが、これには二つのモードしかありえない。

図3 両端に圧縮力が掛かる棒材の変形モード

図3 両端に圧縮力が掛かる棒材の変形モード

念のため言っておくと、図3 右の棒材右端に掛かる圧縮力は反力のことである。図3 の変形モードを頭に入れておいて、図2 の問題に戻ってほしい。

 

さて柱のB について注目すれば、上向きに荷重が掛かっているので、B の頭では、何程かの変位が生じると考えたくなる。いまその変位量をΔX とする。すると、そこはA の下端でもあるわけだから、当然A 下端も変位量ΔX をもつことになる。このとき、A は図3 左の状態にあるわけだから、その対称性によって、A の頭もΔX の変位量が発生していることになる。結局、A はトータルで2×ΔX の変形量を持つことになる。これでは、同じ長さの長さを持つ棒が、同じ荷重条件下で変位量に食い違いが生じるという大きな矛盾が起こることになる。

実は、A 下端(B 上端)に何ほどかの変位量があると考えると、必ず矛盾が起こるわけで、唯一矛盾の起こらないのが、この位置の変位量がゼロの場合だけである。すなわち、図2 の問題の正解は、B は全く変形せず、A のみ頭が下がるといわけである。もちろん、その変形量ΔL のL とは、元の単柱の全長ではなく、A の長さであるが。

この問題の解釈に、別の考え方もある。その一つに、単柱下端部での反力を考えればよい。荷重がA で自己平衡になっているので、もちろん反力は存在しない。すなわち、B は変形無しの剛体のような存在となっている。言い直せば、図2 の問題は、下端(B 上端)を固定したA の部分の単柱問題と同等というわけである。

こういう問題は、解が分かってしまえば、後からなんとか講釈を付けることができるものであるが、問題を出された最初から、数式なしの解説を出来る人は、相当力学センスのある人だろうと推測する。

 

最後に、数理解析での証明を付記しておく。

両端をa,b とする平面トラス要素の要素剛性方程式は、周知の通り次の式である。記号U、S は、それぞれ節点変位、節点力を表している。

上式を図4 にあるA に適用すれば、a=1 、b=2 であり、B に適用すれば、a=2 、b=3 であり、しかも節点3 は拘束点であるので、二つの要素剛性方程式を組み合わせれば、次の通り2 元連立方程式の全体剛性方程式が得られる。

この式を解けば、u2=0 となることが分かる。

図4 単柱のトラス要素モデル

図4 単柱のトラス要素モデル

2017年7月記

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