FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第29話 あのエルデシュも恥をかいた問題

一昨年に出版された本、“直感を裏切る数学(神永正博著、講談社ブルーバックス)”という興味深いタイトルに惹かれて買ってきたものの長く積読になっていたのですが、最近ようやく読むことができました。そして、タイトルからして、やはりというか、“モンティ・ホール問題”が掲載されていました。

書店の本棚で、“つい、誰かに話したくなる雑学”といったようなタイトルの本をよく見かけることがありますが、この“雑学”を“数学”に置き換えれば、“モンティ・ホール問題”など、人に話したくなる話題の筆頭グループに入ること間違いないですね。

モンティ・ホール問題”は、その問題の単純明快さとあっと驚く正解を持つことで確率数学の世界では有名な問題であり、確率の話をテーマとした通読書で、パラドックス的話題の章を持つ本ではたいてい紹介されていると思います。それでも、“モンティ・ホール問題”とは一体何なんだ、という方もおられるでしょうから、まず、問題そのものを紹介しておきます。

 

実はモンティ・ホールとは人の名前です。1990年当時、アメリカのある雑誌内で、“マリリンに聞け”という読者からの質問に答えるコラム記事があったそうです。これに答えていたのが、世界最高のIQを持つといわれた女性だったとのことです。これに掲載されたある問題がテレビのショー番組にも採り上げられ、その番組の司会者の名前がモンティ・ホールだったのです。そして、その採り上げられたある問題の解答こそ、アメリカ中に大論争を巻き起こした、後に“モンティ・ホール問題”と言われた問題だったのです。

問題に臨場感を持たせるため、読者のあなたがショーの舞台に立っていると想像してください。あなたの前には、3つのドアがあります。ドアの背後に置かれている物は何でもいいのですが、原問題を尊重して踏襲することにすれば、ある一つのドアの後ろには新車が置かれており、他の2つのドアの後ろにはヤギが繋がれているとします。

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さて、あなたは、3ドアのうち、どれか一つのドアを選択することが出来て、選択したドアを開いて、新車があれば、それをもらえ、そうでなければ、もちろんヤギを引いて帰ることになる、というゲームです。但し、ドアの前に立つまでは自由ですが、開くのは司会者のゴーサインを待つことになります。これだけだと単純過ぎて、論争にもならないわけですが、もちろんそうではありません。あなたが、あるドアの前に立った直後、司会者モンティが、ある行動をします。

あなたが選んだドアとは別の、ヤギが控えるドアを開いてから-あなたがどのドアの前に立っていようが、モンティの行動が可能なのは理解できますね-あなたに話しかけます。「そのままでもいいですが、ここで、あなたは残り一つのドアに変更することもできますが、あなたはどうされますか?」と。

さて、あなたはどうされるでしょうか。あなたも含めて、初めてこの問題に直面した人は、たぶん変更することはないのではないでしょうか。実は筆者もそうでした。その理由は、変更しようがしまいが、新車の当たる確率は、どのドアを選択しても、選択した時点で、1/3という確率に変わりようがないと考えるものですから。加えて、あなたには、変更へ誘導するようなファイナルアンサーを迫るモンティへの心理的作用も働いて、変更しないのはなおさらではないでしょうか。

しかし、非常に賢いマリリンは、変更することを勧めたのです。変更すれば、変更しないときの確率の2倍増えると言ったのです。実際、マリリンの解答が正解だったのですが、まさに直感を裏切るこの解答には、数学者からも異論が出て大論争になったとのことです。中には、著名な数学者さえもマリリンの解を指弾したとのことです。多くの数学者でも間違える問題ですから、一般人ではなおさらですね。

このパラドックス問題を初めて聞く読者には、正解の理由を聞きたくてウズウズしているのではないでしょうか。冒頭で言った本を初め-正直言って、この本での解説はちょっとわかりづらいと感じます。少なくとも、人に話したくなる話題での解説には不適当と思います-この問題を掲載する書籍には、いろいろな解説文がありますが、宴席での余興話としては、まさしくピッタシの解説は次の通りではないでしょうか。

あなたが最初に選択したドアをあくまでも変更しない場合、新車の当たる確率は当たり前ですが、最初の1/3のまま変わりません。ということは、残りの2ドアが持つ当たる確率は2/3ということです。そして、モンティがそのうちの1ドアを開いた途端(もちろん、ヤギのいるドア)、その2/3という確率は、残りの1ドアが持つことになります。もう分かりますね。あなたが立っているドアが持つ確率が1/3、残りの1ドアが持つ確率が2/3、この状況で、もう一つの方のドアへ向わないあなたはどうかしていますね(あなたがよほどの車嫌いでない限り)!

狐につままれたように感ずるあなたには、もう一つの解説を書いておきましょう。こちらは、もっと具体的に、確率論らしく考えられるシナリオのケースで考える解説です。まず説明のため、3つのドアをA、B、Cと名づけます。そして、今、Aのドアの後ろに新車が置かれているとします。

本問題のミソは、常に変更を選択するところにあります。この変更選択するシナリオがどれだけあるかを考え、そしてその中で、新車が当たる確率はいくらかを考えるのです。それには、次のツリー図で考えれば解は容易に分かるのではないでしょうか。ちなみに図の括弧内の数字は確率を表しています。

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要はあなたが最初に選択するドアが、BかCの場合、モンティが開くドアに選択の余地がなく、変更するあなたは必然的に新車が当たるというところにあなたの有利さがあるわけです。そのシナリオ2と3の確率の和1/3+1/3=2/3がマリリンの言う確率であります。ところで、ツリー図の場合、新車の置かれているドアがAだという前提がありますが、当たりドアをB、Cで考えても、新車の当たる確率に本質的に何の変化もなく上のツリー図と同様な結果となることは言うまでもないことです。

モンティ・ホール問題は、なんだかゲーム理論の匂いも漂わせていると思いませんでしょうか。ゲームが始まってから、新しい情報が入って、さあどうするのが得かという行動科学の問題にも通じますね。相手側の状況が変化しているのにもかかわらず自分側の状況が変わっていないことに囚われて、あくまでも最初の状態を固守して失敗するという、何だか人生訓の好例にもなりますね。

世間には多くの職業があるけれど、勉強をしなくても、何の資格も持っていなくてもなれるのが政治家と言われていますが-政治家のレベルは別にして-確率論だけは勉強していてほしいと願うのは筆者一人でしょうか。

ところで、上でいう確率の1/3から2/3への変化は、選択ドアの変更を許可された人が賢くて、すばやく変更した場合の確率向上であり、通常の一般人では迷ってしまうのが正直なところではないでしょうか。こういう立場にあった場合、あるときはドアを変更し、あるときは変更しない、という状況を考えた場合の確率は一体どうなるのでしょうか。この場合は、上のツリー図で、モンティがドアを開いた後の状態の確率に、変更する、しないの確率1/2をそれぞれ掛けて、その総和を取ればいいはずです。すなわち、

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ここで、各項の後ろに掛かる1/2は、前2項と後ろ2項では、意味合いが反対であることはいいですよね。前者では、変更しなくて新車を当てる確率1/2を、後者では、変更して新車を当てる確率1/2をそれぞれ意味しています。迷った場合は、新車を当てる確率は五分五分という極めて常識的な数値となりますが、それでも、最初の選択に固守するよりもいい結果になっています。

最後に、迷っているケースでの新車を当てる確率1/2を筆者がシミュレーションで試した結果をご紹介しておきます。下の表がその結果です。まさに1/2を示しています。なお、選択する行為は乱数発生と剰余関数で代替しています。すなわち、3ドアの選択は、MOD(N,3)を利用し、変更の有無はMOD(N,2)を使っています。

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今ではWEB上で多く紹介されている“モンティ・ホール問題”が世界的な話題となったのは、問題自身の興味深さもさることながら、この問題で多くの数学者が赤っ恥をかいた問題だったからでしょう。さらに、面白さに拍車をかけたのが、論文数の多さであのオイラーについで2番目に多いと言われたハンガリー生まれの異才の数学者ポール・エルデシュ(1913-1996)までもが、マリリンの解答を指弾して恥をかいたことではないでしょうか。なんとエルデシュがマリリンの解答に納得したのが、シミュレーション結果を見せられたからだということです。

2016年12月記

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