FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第100話 厚板要素物語 その1-厚板要素の小史

本エッセイも、とうとう100 話を迎えることになった。16 年前の第1 回目を“平板要素の歴史”というタイトルで始めている。そこでは主に薄板要素の話題を採り上げている。
現在、流通している市販FEM コードが持つ板要素といえば、そのほとんどが(薄板も包含できる)厚板要素になっている。そこで、この節目の号では、対照的に“厚板要素物語”といったものを話してみることにする。いくつかの話題を拾って何回かの厚板シリーズを続けることにするつもりだが、初回では厚板要素開発の小史を語ってみたい。特にその黎明史を。-ただし、ここでは変位仮定型要素に限定していることを断っておくが。

 

1960 年代に開発が始まった薄板要素(Kirchhoff 板要素)を追いかけるようにして、70 年代は厚板要素(Mindlin 板要素)の開発が始まっている。これには、FEM を使った構造解析の対象にコンクリート構造が加わってきたという時代の要請もあったのでは、と筆者は勝手に思っている。それまでの、FEM ユーザーといえば、航空機、造船、橋梁、プラントといった主にメタル構造を扱う産業界であった。すなわち、プレート/シェル構造といったら、薄板要素で済んだわけである。さすがに、コンクリート構造ともなれば、薄板要素では適用し辛くなってくる-しかし、FEM が登場するまでの時代では、コンクリート構造の設計者も薄板理論を基にした平板の公式集を参考にするしかなかったのが。厚板要素の開発過程における揺籃期では、かのZienkiewicz 大先生とその共同研究者の活動が目立つ。その源泉をたどれば、1970 年、シェル要素の開発において、ソリッド要素を退化させるという今に至るまで標準的手法となっている定式化を始めたという記念碑的論文がある1

図1 ディレクターベクトルを導入してソリッド要素を退化させたシェル要素

図1 ディレクターベクトルを導入してソリッド要素を退化させたシェル要素

しかし、[1]は皮肉にも、平板要素においても板厚が薄くなってくると、ロッキング現象というその後の厚板要素開発の歴史において多くの開発者たちを悩ませ続けた厄介な課題を顕示してしまった別な意味での記念碑的な論文でもあった。

1971 年、ロッキング対策に剛性マトリックス作成時の積分点数を減ずるという低減積分法あるいは選択低減積分法(第3話参照)を採用した厚板要素が開発されている2 。当初、開発者たちの間では、ともかく効果のある低減積分の意味が分かっていなかったそうである。何かトリッキーなテクニックと考えられていたそうである。

トリッキーという言葉が出たので、ちょっと脱線話をする。薄板要素でもそうであったが、それにまして厚板要素の開発では、その成功例では随分と試行錯誤の跡が伺える。どこか発見的な成果であることを否定できないことが多い。体系的な数学的理論に導かれるものでない、極めて工学的な手段が使われて成功しているのである。これが、数学的難解さとは別の意味で、板要素の開発を難解で近づき難いものにしているのである。FEM の教科書をよく理解したからといって、板要素を開発できるというものでは決してないのである。相当の時間を割いて、試行錯誤の連続を覚悟しなければ成功には至らないように思われる。

 

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閑話休題。横せん断歪を無視する薄板では、撓み変数の1 回微分=撓み角になるゆえ、撓み関数のみを仮定する要素開発アプローチも考えられたが、横せん断歪がもはやゼロとできない厚板要素では撓みと撓み角の物理量をお互い独立で仮定するところを出発点とする。このとき、2D や3D の連続体要素で採られているアイソパラメトリック要素の手法が適用されるのが自然の成り行きでもあった。[1]も[2]もそうである。

要素辺しか節点を持たさないセレンディピティ(Serendipity)型要素、あるいは要素内部にも節点を配置するラグランジュ(Lagrange)型要素に低減積分を施した要素は、結局は駄目であった。低減積分のせいで境界条件によっては、今度は剛性マトリックスがランク落ちして求解が不能となったり、一見、解が出ても擬似モードが現れて、とても実用に耐える要素資格を持てないことが分かってきたからである。

図2 2次の板要素

図2 2次の板要素

それでも、この方向で頑張る開発者もいたもので、8 節点セレンディピティ型要素と9 節点ラグランジュ型要素の両者を混成して、アクロバット的な手際で展開された要素が開発された。すなわち、並進変位にはセレンディピティ型の変位関数を用い、回転変位はラグランジュ型の変位関数を用いた要素である。これが、一時は有名になったヘテロシス(Heterosis)要素である34 。Heterosisというのは、遺伝子分野の用語で、「両親の優生を受け継ぐ」といったような意味だそうだ。ヘテロシス要素は、ロッキングも起こさず、擬似モードも発生しないので-実は、一つの擬似モードを持つのだが、これは伝播性がないため、複数要素では問題でなくなる-日本でもコンクリート分野の大学研究室では、多く使用されていたと感想を持つ。たぶん今でも、使用されている所もあると想像する。

しかしヘテロシス要素は、8/9 節点要素という孤高の要素であり、また一つの大きな弱点もあり、流通FEM コードで広く採用されるというわけにはいかなかった。その弱点とは、要素の歪みに敏感であることである。これは、やはり変位を仮定する要素タイプの大きな悩みであり、ヘテロシス要素もこの例外ではなかった。

上の流れとは別に、1980 年前後には、歪分布を仮定する新しいタイプの厚板要素の開発成果が出てきた567 。特に、板要素で問題の根となっている横せん断歪を仮定するところが画期的であった。それも、それまでの変位関数がデカルト座標系参照であったものが、アイソパラメトリック要素で使われている曲線座標系(自然座標系)を参照にしているので、要素の歪みにも強さを発揮できることになったのである。この時期に開発された歪仮定型の厚板要素は、世界的に著名な各FEM コードでも採用されているものである。

 

さて、この後の歴史語りが早足となることをお許し願いたい。というのも、筆者がこの分野の文献を渉猟していた時代は、1980 年代のものが対象であり、その後は、当分野から離れてしまったからである。それで、90 年代以降の板要素開発を語る資格は筆者にはないと感じている。それでも、ときおり文献を散見して言えることは、昔タイプのように要素内領域の物理量をいきなり仮定するのではなく、一旦、要素辺での分布を仮定した後に、それを使って要素内部の分布を補間する方式が多くなっていることである。そこには、巧みな仮定式、補間式が採られていることは言うまでもない。

最後に、1990 年代の特筆すべきことを述べて終りとしたい。FEM の世界は、他の理工学野同様、そもそも誕生からして欧米の地であったから当然のごとく、欧米の研究者たちの研究成果に依存するところが大きかった。しかしこの時代には、うれしいことにアジア系の開発者たちの活躍が始まり、実用的な厚板要素が開発されているのである8910

2016 年元旦

  1. Ahmad, S., Irons, B.M., Zienkiewicz, O.C.
    Analysis of thick and thin shell structures by curved finite elements.
    Int. Jounal for Numerical Methods in Engineering, 2, 1970, 419-451 []
  2. Zienkiewicz, O.C., Taylor, R.L., Too, J.M.
    Reduced integration technique in general analusis of plates and shells.
    Int. Jounal for Numerical Methods in Engineering, 3, 1971, 275-290 []
  3. Hughes, T.J.R., Cohen, M.
    The heterosis finite element for plate bending.
    Computers and structures, Vol. 9, 1978, 445-450 []
  4. E.Hinton and D.R.J.Owen
    FINITE ELEMENT SOFTWARE FOR PLATES AND SHELLS
    1984 by Pineridge Press Limited []
  5. MacNeal, R.
    A simple quadrilateral shell element
    Computers and structures, Vol. 8, 1978, 175-183 []
  6. Bathe, K,J., Dvorkin, E.N.
    A four node plate bending element based on Mindlin Reissner plate theory
    and a mixed interpolation.
    Int. Jounal for Numerical Methods in Engineering, 21, 1985, 367-383 []
  7. Bathe, K,J., Dvorkin, E.N.
    A formulation of general shell elements – the use of mixed interpolation of Tensorial components.
    Int. Jounal for Numerical Methods in Engineering, 22, 1986, 697-722 []
  8. Kikuchi F., Ishii K.
    An improved 4-node quadrilateral plate bending element of Reissner-
    Mindlin type.
    Compute. Mech. 23, 1999, 2440-249 []
  9. Katili, I.
    A new Discrete Kirchhoff – Mindlin Element based on Mindlin – Reissner
    Plate theory and assumed shear strain fields –
    Part Ⅰ:
    An extended DKT element for thick – plate bending analysis.
    Int. J. for Num. Meth. in Eng., 36, 1993, 1859-1883
    Part Ⅱ:
    An extended DKQ element for thick – plate bending analysis.
    Int. J. for Num. Meth. in Eng., 36, 1993, 1885-1908 []
  10. Soh. A., Cen, S., Long, ZF.,
    A new nine DOF triangular element for analysis of thick and thin plates
    Eur. J. Meth. A/Solids, 20, 2001, 299-326 []

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