FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第60話 左右に分かれる表面力

図60-1 弾性体表面の境界条件

図60-1 弾性体表面の境界条件

変形している弾性体が静的平衡状態あるとき、体積力でも働いていない限り、弾性体のすべての表面領域では、表面力が規定されているか、もしくは変位が規定されていなければならない。そして、剛体変形が生じていないことを前提とすれば、表面のどこかで、必ず変位規定があるはずである。

上のことが、有限要素法(FEM)ユーザーがFEMソルバーを使用する際、拘束条件を設定したり、荷重データを入力することに相当しているわけである。こんなことを言えば、FEMに不慣れな方からは、何も設定しない節点位置が多く存在するではないか、と反論が出てくるかもしれない。何も設定しない領域とは、取りも直さず、外力すなわち表面力がゼロであることを意味しているのである。

ところで、弾性体表面での境界条件の中で、表面力規定なのか変位規定なのか分かりづらいものもある。バネ支持がそうである。弾性支持とも言われるので、名称からは変位規定のように思われるが、変形前にはその量が規定できない。一方、バネに発生するスプリング力が弾性体表面にかかることになるので、表面力規定とも言えそうだが、やはり変形前にはその量は規定できない。そんな訳で、どちらともいえないバネ支持だが、ここでは、話の都合上、あえて表面力規定とみなしておく。

さて、FEM理論の基本式誘導のスタート時点で使用される仮想仕事の概念のうち、表面力によるそれは、既知力(外力P)であろうと、未知力(スプリング力S)であろうと、次式のようになる。

ところが、外力Pの方が一定であるのに対し、スプリング力Sはよく知られるように変位に比例する。

したがって、最終的な平衡方程式において、外力から由来する項が定数項として右辺にシフトするのに対して、スプリング力の仮想仕事は変位の2次式となって、こちらは左辺に留まることになる。

この両者の違いは大きい。右辺ベクトルにエントリーされる量はベクトルであるのに対し、左辺剛性マトリックスにエントリーされる量はテンソル的に振る舞うからである。この違いから、実務面のバネ支持の問題で厄介なことが生じるのであるが、それを話す前に、少し余談をしてみる。

 

上の話で、外力による仮想仕事が変位の1次式で表現できるため、平衡方程式では定数の右辺ベクトルにシフトされると言った。これは、外力が変形過程中、一定であるとしているからである。このように変形経路の如何にかかわらず、変形前後の位置さえ決まれば、仕事が一意に決定される力を保存力という。保存力で一番分かりやすいのが重力であろう。

図60-2 水圧と遠心力

図60-2 水圧と遠心力

これに対して、変形経路に依存する力を非保存力といい、変位に依存する水圧や遠心力が構造解析での代表的な非保存力である。

水圧は水深に依存するため、それの掛かる表面が変位して水深が変化すると圧力値が変化するし、たとえその変化量が小さくても、水圧荷重は常に表面に垂直に働くため、表面が変形すると最初の水圧方向から変化してしまう。一方、体積力の一つである遠心力も、よく知られているように回転軸からの距離に比例するものだから、変形過程で一定とは言えなくなる。

これらの力を構造解析分野では、“追従力”あるいは“従動力”と呼ぶこともある。この非保存力を扱う場合、難易度レベルがバネ支持どころではなくなってくる。しかし、幸いにも構造設計者が対象とする標準的な解析レベルである線形解析では、変形前での平衡方程式を立て、かつ、水圧も遠心力も変形過程が極小ゆえ一定とみなすのである。非保存力を扱うのは幾何学的非線形解析の世界の話である。

 

閑話休題。バネ支持の話題に戻る。建築・土木構造物の多くは地盤に接して造られる。ところが、地盤が剛体ではないので、何らかの形で地盤をモデル化する必要がある。このとき、地盤の挙動そのものに関心がなければ、通常の弾性解析では地盤支持の影響はバネ拘束(接地バネ)でモデル化することになる。そこで、建設系分野の構造設計仕様書には工学的判断から決定されたバネ定数値の使用が推奨されている。

ここで一つ、構造解析を実行しようとする設計者を悩ます問題が生じる。構造物と地盤は面接触するので、当然、用意するバネ定数は単位面積当たりの数値である。例えばバネ定数の単位がN/mであれば、分布バネ定数はN/m/m2となり、見かけ上は単位体積当たりN/m3となる。このバネ定数を離散化モデル数値解析であるFEMに使用する場合、節点位置でのバネ定数に換算してから指定する必要がある。すなわち、節点周辺の有効面積を分布バネ定数に乗じて単位がN/mのバネ定数に置き換えるわけである。

この、分布バネ定数→節点バネ定数の手段は別に特別な方法ではなく、同じような手段が既に荷重強度の換算で使用実績にあることは読者諸氏がよくご存じのことだと思う。問題は、バネ拘束される構造物表面が不連続になっている場合である。

図60-3 換算節点力と換算節点バネ

図60-3 換算節点力と換算節点バネ

図60-3にある構造表面の不連続点にある節点に換算されたバネ定数を設定する際に困ったことが起こる。荷重の場合だと、節点荷重がベクトル量なので、それぞれに求まった節点荷重を別個に与えようが、合成ベクトルを求めてから与えようが自由である。

節点バネの場合はそうはいかない。バネ定数は(1×1)の一種の剛性マトリックスでもあり、また、作用する面の向きにも関係するため、その振る舞いはテンソル的であり、荷重のような合成はできない。

一方、一つひとつ節点バネ定数を与えるにしても、当該節点での自由度が参照する座標系が全体座標系であれ、局所座標系であれ、通常デカルト座標系であるから、任意の角度で交わる不連続面では、面の法線方向が座標軸方向と一致しないため、節点バネを複数設定できないことになる。図60-3で言えば、鉛直方向節点バネはy軸方向バネとして設定できるが、斜め方向節点バネの方は設定できないことになる。

こういう場合、全くお手上げかといえば、そうでもない。代替手段がある。利用しているソルバーに、両端の節点配置が自由に置けるスカラーバネ要素が用意されていれば、接地バネの代わりにそれを利用すればいいし、スカラーバネ要素がなければ、トラス要素を利用してもいい。後者の場合、適当に弾性係数と断面積、要素長を仮定して、要素剛性がバネ定数に一致するようにすればよい。ただし、両者とも新たに設ける節点の位置は当該表面の法線方向に設けることと1 、追加節点の自由度は完全拘束にすることは言うまでもない。

実は換算節点バネ定数については、厄介なことがもう一つある。機能豊富な市販ソルバーでは、分布する荷重強度から節点荷重に置き換える機能が付属しているのが通常である。まれにやや特殊な分布を持つ荷重の場合で、その変換機能がソルバーになくても、プリプロセッサーがそれを受け持つことが少なくない。ユーザーが手計算で換算計算する必要があるというのは、よほど特殊なケースであろう。

ところが、バネの場合、分布バネから節点バネに置き換える機能というのは、筆者の知る限り、市販ソルバー内の機能では見たことがない。かろうじて、梁要素のオプション機能として用意されているぐらいだろう。梁要素同様、面法線軸が要素座標系での座標軸と一致する板要素では、本機能があってよさそうだが、この要素にもないのが普通である。

そんなことはない、装備されているソルバーを知っていると言う読者がおられたら、是非、筆者までお知らせ願いたい。

2009年梅雨の候記

  1. ここでは、せん断ばねは考慮していない。 []

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