第61話 ビュフォンという人
私事の話で恐縮しますが、筆者は休日の散歩のついでに大型書店をよくのぞきます。本好きゆえ各分野の書棚に目をやるものですから、科学書のコーナーでビュフォンという人の名を本の背表紙にあるのをよく目にしていました。人物については知らなかったのですが、博物学の本のようなので、その道の専門家ぐらいにしか考えていませんでした。
過日、ある本でそのビュフォンがモンテカルロ法での古典的問題、“ビュフォンの針の問題”のビュフォンであることを知り驚いた次第です。そんなことで、少しビュフォンに興味を持ち、調べてみたらフランス革命前の知識人であり、有名な数学者ダランベールよりも10年先輩ですが、活躍時期がほぼ重なっていることが分かってきました。
ビュフォン(Buffon;仏1707-1788)は裕福な家庭に生まれ、その財産を背景にして、後に博物学にのめりこむことができたようです。博物学の歴史では第一人者と言っても過言ではないようで、そもそも、博物学を創設したのが彼だともいわれています。
若い頃は数学に関心があり、いろいろ研究もしたようです。“ビュフォンの針の問題”もそのころの賜物なのでしょう。面白いところでは、木造軍艦に使用される木材の引張り強度の研究なども人に依頼されたりしています。だが、やがて、自分の数学的才能の限界を知り、数学を離れて興味の対象を植物学に転向していったようです。これが博物学の巨人を生み出した経緯であります。
ところで、“モンテカルロ法”とか“ビュフォンの針の問題”とは何ぞやという方には上の話も興味が半減するでしょうから、ここで少し紹介しておきましょう。
モンテカルロ法とは史上有名な原爆開発計画、マンハッタン計画の最中、これまた、有名な天才ジョン・フォン・ノイマンが中性子の拡散の計算に使用したあたりから名づけられた手法であります。解析的には手におえないような問題をコンピュータと乱数を使って解決を図る確率論的なアプローチのことです。簡単に言えば、サイコロを多く振るような手段であることから、カジノの本場、モンテカルロのネーミングが採られた次第です。
“ビュフォンの針の問題”の方はもちろん、モンテカルロ法の名が登場する遥か以前、ビュフォンが確率論を考察した際に求められた問題です。
平面上に等間隔の平行線が引かれているとします。その間隔をD とします。その上に、1本の細い針を無作為に落とすとします。針の長さをL(ただし、L< D)とすれば、針が1本の直線と交わる確率は2L/πD であるとビュフォンは結論付けています。
落とされた針は一端の位置と方向角が決まれば完全にポジショニングされ、直線と交わる条件は次式のとおりとなります。
それで、実際に針を落としてx、θ を測る代わりに乱数を発生させてその代行させるのです。ビュフォンの結果を利用すれば、逆にπ の値が求まるから面白い。筆者が使用しているコンピュータープログラム言語に用意されている乱数発生関数を使って、少し試行してみますと以下のような結果となりました。
2008年12月記