FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第115話 チャンネル型断面梁の力学 その5
                - 危ない荷重置換

第111話以降、薄肉開断面梁における曲げねじり理論をテーマに話を続けてきたが、最後に一つの危険な荷重置換の話題を紹介して、このシリーズの締めくくりとしたい。

今シリーズ執筆に際して、筆者は、ウラソフの本(第111話参照)を40数年ぶりに再読してみた。そしたら、一つの興味深い記載ページを再発見した。そこでは、載荷された薄肉開断面梁がねじれを起こすのは、せん断中心位置を外した横荷重だけでなく、縦荷重が断面に作用する場合も起こることを言っている。そんなことで、今回のような話題に思いを巡らした次第である。

伝統的な梁の構造力学の流れからくるのか、ときおり梁の途中断面で集中モーメント荷重を掛ける場面に遭遇することがある。このとき、ソリッド要素(板要素でも)を使ったFEMモデルでは、直接モーメント荷重を掛けることができないので、静力学的に等価な載荷条件で置き換えることになるはずだ。いま図1にあるようなチャンネル断面の片持ち梁をソリッド要素適用のFEMモデルで考えて、その先端に集中曲げモーメントを載荷する問題を想定してみよう。

図1 先端に集中モーメント荷重を受ける片持ち梁

図1 先端に集中モーメント荷重を受ける片持ち梁

集中曲げモーメントを偶力に置き換えたモデルのイメージ図が図2である。ここでは、フランジ端部から偶力載荷位置までの距離dをいろいろ変化させて、ウェブ、フランジ両肉厚中心線の交点部(上側)の軸応力の棒軸方向の分布を見ようとしている。図2における赤線分布に相当するのが、図3のグラフである。

図2 チャンネル型断面の偶力載荷位置と求応力位置

図2 チャンネル型断面の偶力載荷位置と求応力位置

図3グラフにおける横軸原点は片持ち梁の固定点を、横軸右端は同じく自由端を指している。グラフを見れば一目瞭然、応力値が偶力の載荷位置に大きく依存してしまっている。同じ場所の応力値が載荷位置の違いで圧縮/引張応力の違いさえ出ている。さらに言えば、本問題は、事実上「純曲げ問題」であるにもかかわらず、多くの載荷位置の結果で、軸方向に変化している状況である。これでは、とても集中モーメントを偶力に置き換えることなど出来るものではない。

偶力載荷位置への依存性の理由ははっきりしている。それは、断面内に分布するそり関数の存在である。第112話の付図にあるチャンネル型断面に分布するそり関数図を見てもらいたい。断面の任意位置に縦荷重が載荷されると、その位置には、そり関数が存在しており、縦荷重とそり関数の共存が新たな曲げねじりモーメントを誘発し、これによる軸応力が加算されるためである。ここのところを少し数式で解説しよう。

まず第112話の比較表1にある、曲げねじりモーメントMωの定義式をみてもらいたい。その式にある積分を近似的に換算すれば下の通りのはずである。

上式のPとは縦集中荷重のことである。今の場合、i=1なので -厳密に言えば、偶力を考えているのでi=2だが- Mω=Pk×ωk (kは任意位置)となり、これすなわち、一つの縦集中荷重が曲げねじりモーメントを誘発することを意味しているのである。グラフにおける載荷位置による変動は、kの移動によるそり関数の値の違いに由来することである。

ところで、図3のグラフをよく見ると、d/b=0.36~0.54の中の位置で、純曲げ問題を表現し得る位置がありそうである。そう、d/b=0.4の載荷位置が本問題の唯一の解決策となる位置なのである。実はこの位置こそ、そり関数がゼロとなる位置なのである。

図3 偶力載荷位置と軸応力分布の関係

図3 偶力載荷位置と軸応力分布の関係

改めて、d/b=0.4の載荷位置で再計算した結果が図4のグラフである。グラフには、集中モーメントを載荷した梁の曲げ公式結果も添付している。両者は、端部を除く領域でぴったり一致しており、しかも純曲げの状態をよく反映している。なお念のため言っておくと、グラフ両端部での応力の変化は、梁理論では表現できない応力の局部的な端部効果である。

図4 そり関数ゼロ位置での偶力載荷による純曲げ応力分布

図4 そり関数ゼロ位置での偶力載荷による純曲げ応力分布

2017年6月記

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