FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第98話 固有振動計算余話

構造物の固有振動数を求める解析は、実際の数値解析の困難さはともかく、それを表現する理論式は次式の通りシンプルである。よく知られているように、これは数学的には固有値問題である。

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式(1)が標準的な固有振動解析の定番式であり、構造物の振動解析を扱っている書籍のほとんどに出てくる式である。ところが、例外というものがあって、式(1)にあるような剛性マトリックスを持ってきても、固有振動が求まらない振動問題がある。ピアノ線や弦楽器の弦の振動問題がこのケースである。この状況は、FEM 要素で実際にモデル化してみれば容易に理解できる。弦の振動問題を扱う場合、図1 のように弦をトラス要素でモデル化する。

図1 トラス要素でモデル化した1 本の弦

図1 トラス要素でモデル化した1 本の弦

図1 を見れば分かる通り、弦の振動は、鉛直方向の振幅を持つ動きであるのに、トラス要素はこの方向に全く剛性を持たない。これは、何も振動問題を持ちださなくても、静弾性解析でも言えることであって、どこかの格点に荷重を掛けて変形を求めようとしても、構造系全体がリンク構造になっていて不安定構造となり、解が求まらない。お手元のFEM ソルバーをご利用になれば、例の剛性マトリックスが特異(Singular)となっていることを示すエラーメッセージが出ることだろう。

それでは、弦の振動問題はFEM 解析できないのかといえば、そんなことはない。実際の弦楽器がそうであるように、トラス要素に初期テンションを与えればいい。初期テンションの影響を表現する剛性マトリックスをFEM では初期応力マトリックスKGと呼んでいる。このKGは座屈解析に出てくる初期応力マトリックスと全く同型のものだ。また、このマトリックスは、大変形問題を扱う幾何学的非線形解析にも登場するマトリックスで、その場合は、名を幾何剛性マトリックスと呼び替えることもある。

さて、そんな事情で、弦の固有振動解析の基本式は、式(1)に代わって、次の通りとなる。

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ところで、式(2)のように、固有振動方程式の左辺に初期応力マトリックスだけが存在しているケースというのは、例外中の例外の事であって、初期応力マトリックスKGが登場する振動問題は、剛性マトリックスKも常にペアとして出てくるものだ。すなわち、基本式は次式のようになる。

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式(3)は、初期応力を考慮した固有振動方程式といわれるもので、これは、通常見慣れている標準的な固有振動解析よりも一段レベルの高い問題となる。温度応力が発生した構造物、重力作用下の構造物、あるいは遠心力が働いている等など、初期応力が発生している構造物の固有振動を求める、といった振動問題で出動願う方程式である。

ここで、弦のモデルとしては一番粗っぽい、スパン中央1 点だけに質量を持つトラス構造を考えて(図2)、具体的な数式を考えてみよう。それには、まず一般的な振動方程式(3)からスタートしてみる。

図2 1 質点の弦モデル

図2 1 質点の弦モデル

1 質点のモデル化には(当然、1 次モードしか得られない)、本来2 要素が必要なのだが、振動モードのスパン中央における対称条件が利用できるので、1 要素で済む(図2の1-2要素)。そして式(3)を構成するトラス要素の各マトリックスは、1-2 要素に対しては次の通りである。なお、質量マトリックスMは集中マトリックスを採用する。

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ここに、E はヤング率を、T は弦材に作用している初期テンションを意味している。なお、各マトリックスに出てくる要素長は、弦長L の半分であり、右辺係数にはその調整係数が掛かっていることに注意していただきたい。

 

式(4)の各マトリックスを式(3)に代入すれば、具体的な固有振動方程式が出来上がるが、そんなことをするまでもなく、この問題では、U1 = V1 = U2 = 0の境界条件を考慮すれば、最後の変数V2単独の方程式のみが残ることが分かる。すなわち、

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式(5)より、固有角振動数ωが、あるいは固有振動数に置き換えれば、次のように求まる。

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一方、微分方程式から導かれた弦の固有振動数の理論解(1次の固有振動)は、次式のように求まっている。

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式(6)と式(7)の両者比較すれば、係数の違い、

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だけなので、非常に粗っぽい1 質点モデルでも、理論解とは、“当たらずといえども遠からず”の解を弾き出していることが興味深い。

 

次に、弦と同様、初期張力が存在する単純梁の横振動の話題についても触れておこう(図3)。

図3 初期張力が存在する単純梁

図3 初期張力が存在する単純梁

図4 張力値と固有値の線形関係

図4 張力値と固有値の線形関係

図3 のモデル化に当たっては、回転質量を与えることができるならば、1 要素の梁モデルでも計算可能だが、振動モードの確認のことを考えれば、少なくともスパン中央に節点を持つ2 要素モデル以上で解析するのが妥当だろう。ただし、図2 のケースのように1 次モードの範囲であれば、対称条件を使って1要素モデルも可能だが。

いずれにしても、計算してみて分かるのは、初期張力T と固有値ω2とは図4にあるように線形の関係となる。弦の振動のときと同じく、初期張力T が大きくなればなるほど、固有振動数(固有振動数f=ω/)が大きくなる傾向は直感的にも理解できることである。

さらに注目していただきたいのは、T が負の値となる場合、すなわち圧縮力に転換したときのことである。図4 にある直線を延長して、横軸と交差する時のT の値が何を意味するかだ。この時は、ω2 = 0 であり、当然これは固有振動数がゼロを意味しており、換言すれば固有周期が無限大を意味しています。

固有周期が無限大というのは、ひとたび振幅方向に振動した構造が、変形したきりでもはや戻ってこないことをイメージさせる。実はこれ、座屈現象を意味しているのである。もし、このことに興味を持たれ、かつ手元に汎用型FEMソルバーをお持ちの読者は、一度、適当な諸元を設定した梁構造を想定して、図4 の直線が得られる計算(T 値を変えた計算を2 回実施すれば充分)と一度の座屈解析で確認をされてはいかがだろうか。なお、梁構造の境界条件は、図3 の場合に限らないこと言っておく。

この現象は、実は式(3)の固有値方程式からも説明がつくのである。固有値ω2がゼロということは、もちろん式(3)は次の通りとなる。

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式(3)が有意な解ベクトルqを持つためには、係数マトリックスの行列式がゼロであることが数学的に必要となる。

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そして、式(4)にあるように、初期応力マトリックスKGには、初期応力T(実際には圧縮力)が含まれているので、結局、式(9)は固有値をT とする固有値問題の方程式となっているわけである。実に固有振動問題と座屈問題はこういう関係にあったわけだ。昔、座屈問題を動的判定問題としてとらえる時代があったことも言っておく。

2015年10月記

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