FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第43話 軸対称要素のドキッ

図43‒1 回転体のモデル平面

図43‒1 回転体のモデル平面

周りを見渡せば、世の中には結構、回転体構造物が存在していることに気づく。有限要素法の軸対称要素の存在意義が大いにあるというわけだ。ほとんどの対象が工業製品であると思われるが、平面歪みでなく軸対称問題として解く地盤解析問題などもある。
有限要素法の参考書を開くと軸対称要素、特に軸対称ソリッド要素(以下、軸対称要素と称す)については、平面応力要素、平面歪み要素の2次元連続体要素を説明する章の中で一緒に扱われていることがある。実際、プログラミングする際には容易に理解できるが、この3要素タイプは同じ処理ルーチンで扱うことができる。

節点自由度が平面内の並進2自由度だけというのが、3タイプの平面要素に共通した点である。ただし、応力-歪み関係式だけが三者で異なっているだけと思って、軸対称要素を他の平面要素と同一視していると落とし穴に陥る。見つめているのが平面なので、つい奥行きの存在を忘れがちとなる。

ここでは、有限要素法の初級ユーザ向けに、平面要素グループ内では特異な存在となっている、軸対称要素が適用される軸対称モデルについて、その特異性を案内しておこう。

図43‒2 軸対称要素

図43‒2 軸対称要素

まずは、境界条件に関係することから。

平面応力(歪み)問題の場合、全く拘束条件を設定しなければ、水平、鉛直方向に面内回転という3つの剛体変形モードが存在して、そのままでは解析できないことになる。したがって、この3種の変形モードを止める拘束条件の指定が必要となる。一方、軸対称モデルで存在する剛体変形モードは鉛直方向の1種のみである。この理由は次の通り。

いま、軸対称モデルを半径方向に剛体的に移動させたとしよう。有限要素法の標準的な論法に従えば、半径方向に仮想変位を考える。そうすると、このモデルの特質から回転体円周方向にも変位が発生して円周方向の歪みが生じ、それに対応してフープ応力も発生する(図43-2)。

図43‒3 鉛直方向のみの拘束

図43‒3 鉛直方向のみの拘束

平面応力などと違って、面外方向に歪みも応力も同時発生してしまうのが軸対称モデルの特質だが、ということは半径方向の剛体的移動が円周方向の仕事を誘発することになるわけだ。逆に言えば、内部仕事を発生させずに、半径方向の剛体変位はあり得ないということになる。仕事をしては剛体変形ではない。同じ理由で面内回転の剛体変形モードも無いわけである。そこで残るのは鉛直方向の剛体変形モードのみということになる。これが、軸対称モデルでは、一般に鉛直方向のみの拘束条件が必要という理由である。

図43‒4 空洞のある軸対称モデル

図43‒4 空洞のある軸対称モデル

ところが、ここに1つ問題点が残る。まず、図43-4左のような、中に空洞がある軸対称モデルを見ていただきたい。圧力容器の解析などでおなじみの問題である。この場合、内圧がかかる内面にある節点には当然、半径方向の拘束はない。内径の半径がさらに小さくても同じである。次に、この構造の内径位置が回転軸位置まできたとする。すなわち、内径=0です。それでも、拘束条件の無いこの問題は解ける。ただし、もはや内圧問題を考えるのはおかしいので、外圧に切り替えるか、上下面載荷の円盤問題を想定しよう。このとき、われわれは何をやっているかといえば、回転軸位置に極細いピンホールがある問題を解いていることになる(図43-4右)。

しかし、何か気持ち悪くないだろうか。気持ち悪い人は、回転軸上にある節点の半径方向を拘束することである。問題によっては、回転軸上節点の処置をしなくても実害が出ないケースもあるが、回転軸位置辺りで応力が大きくなる問題では、ピンホールの歪みが解に少なからず悪影響を出してしまう。円盤の載荷問題などがそうである。

次に、荷重条件について。

軸対称モデルの場合、たいていの有限要素法プログラムでは、回転体構造から1ラジアン分を切り出したモデルとして扱っていることを念頭に置くこと。まあ、1ラジアン分のバウムクーヘンを真横から眺めていると思えばいいわけである。

このバウムクーヘンに載荷する場合、単位が[N/mm2]のような分布荷重強度を指定する場合はいいのだが、節点荷重を直接、設定する場合は要注意である。

1要素の面分布荷重から節点荷重に変換する場合を想定しよう。このとき、平面歪み要素の節点が単位幅を、平面応力要素の節点が板厚をそれぞれ背負っているのに対して、軸対称要素の節点は1ラジアン分の円周長さを背負っていることを認識する必要がある。それで、図43-5のように面分布荷重から線分布荷重に変換したとき、内外側の各節点では半径の違いが出てくる。その線分布荷重強度から節点荷重に変換するときにも節点間距離の影響が入って、結局、図43-5下段のようになる。

図43‒5 面分布荷重から節点荷重への変換

図43‒5 面分布荷重から節点荷重への変換

図43‒6 回転中心にかかる集中荷重

図43‒6 回転中心にかかる集中荷重

ところで、回転体モデルでは興味深い荷重がある。最初から回転軸上に載る集中荷重の扱いである。これは、軸対称モデルが1ラジアン分であるということを思い出すこと。それで、2π で除した荷重値を指定することになる。ちょうど、線(面)対称性を利用した構造解析で、その対称線上に集中荷重を掛ける際、半分の値にするのと同じ理屈である。

掛けた荷重値に自信が持てないときは、反力値を見ること。トータルの荷重値は当然、認識しているであろうし、反力の釣り合いチェックで納得がいくと思われる。ただし、この解析では1ラジアン分の荷重/反力であることをお忘れなく。

2007年4月 記

Advertisement

コメントを残す

ページ上部へ