第1話 梁と板の力学には限界がある
[ユーザの声]
昔、FEMユーザから両端固定梁の解析をビーム要素と板要素で比較したところ、結果が随分違うので、何故かという問い合わせをもらったことがある。俎板に上がった梁構造は、矩形断面で荷重は自重を対象としていた単純な問題である。
ユーザが言うには、梁要素を使ったFEM解析によるスパン中央のたわみ値は公式集にある梁理論の結果とよく一致するのに、板要素使用のFEM解析結果はなんと7倍の開きがあるというのである。

古典的な梁理論をベースにした骨組構造解析に長く慣れ親しんできた土木・建築系の人たちが、ひとたびFEM解析に携わることになると、ついFEM解析の結果を梁解析と比較したがる傾向にある。これには、この分野の設計者たちが、教育機関で受けてきた応用力学が梁の力学であり、また社会に出て設計現場で手にする設計仕様書内にある多くのスペックが梁の力学で展開されたものであることが大きな理由であろう。
さらにFEMに不慣れなユーザが解析結果の信頼性を確認するためであることも理由の1つであろう。以下の内容は、単純作業であろうと思われる 上の両者の比較が、実は理論背景の知識なしで比較してしまうと、大間違いしてしまう実例を示すものである。

さっそく、ユーザから届いた梁の寸法を元に3次元表示(奥域は省く)したところ、なんと図1の構造形態であった。念のため言っておくと、 h は板厚である。スパンL=4,900に対して板厚h3,500である。図1は、実際のL:h比の描画となっている。 なお、本話は比較論が主なので、単位のことは重要でない。よって以下の本文内の数値には読者が適当な単位をイメージしてもらえばよい。
h/L=0.71という、とんでもない指標値(「有限要素法よもやま話」第45話参照)の構造に梁理論の適用が可なのかどうかの問題は後述するとして、まずFEMプログラムで採用されている梁要素と板要素の予備知識を整理しておきたい。それぞれ2種のタイプがあることは、既にこれまでのエッセイ中で言ってきたことだ。
▼梁要素
| Be | オイラー梁 | せん断変形無視の梁理論がベース。 梁要素のスタンダード。応用力学の教科書及び公式集で掲載されているのがこのタイプ。 |
| Bt | ティモシェンコ梁 | オイラー梁にせん断変形の影響をプラスした1段階レベルアップした梁要素。 |
▼板要素
| Pk | キルヒホッフ板 | 薄板専用。梁要素のオイラー梁に相当。FEM 登場以前、板理論の主役であった。公式集に掲載されている数式はこの板のものである。 |
| Pm | ミンドリン板 | 薄板も兼ねた厚板要素。せん断変形も考慮されている。市販の FEM ソフトで採用されているのが、この板要素である。 |
さて、上のBe〜Pmの要素を使ってユーザ提供の両端固定梁モデルでFEM解析を実施した結果を下表に記す。数値はスパン中央のたわみ量である。
| スパン中央のたわみ | |
| Be | 5.421 × 10-5 |
| Bt | 3.676 × 10-4 |
| Pk | 5.373 × 10-5 |
| Pm | 3.710 × 10-4 |
ユーザがまず言っている、梁要素を使ったFEM解析が公式集にある理論解とよく一致しているという梁要素とはBeのことである。それは、もしBtであるならば、通常の梁断面積に加えてせん断変形用の断面積が必要とさるのに、それが用意されていなかったゆえである。
さて、Beが理論解によく一致するというのは至極当たり前の話であることを言っておこう。梁の変形理論を微分方程式の解法で解決しているのが理論解であり、Beでは同じ物理を歪エネルギー論から出発して離散的解として求めているだけで、事実上両者は一致するものである。
そして、比較対象として採用した板要素とはPmである。それは、表中にも記したことであるが、FEMプログラムで日常的に使われているのがPmだからである。図1にあるような深い梁構造(もはや、梁と言うのは疑問)に対して、かたや、せん断変形が考慮されず、かたや、それを考慮した要素を比較した結果がユーザの疑問となっているのである。
ここで、1つ興味がわいてくる。せん断変形考慮の有無を同一に比較した、すなわち、BeとPkおよびBtとPmの比較すれば、どうなるのか?結果は上表にあるとおりで、おおよその一致を確認できる。h/L比が大きい梁構造では、せん断変形の影響が大きいことを物語っているのである。
さて、話はこれで終わらない。先にも記したが、図1にあるようなh/L=0.71という構造に一体全体、梁要素や板要素の採用が適格なのかどうかの問題が残る。そこで、この構造体をソリッド要素でメッシュ分割したFEM解析を施したところ下のような結果が出た。
スパン中央のたわみ値:W=7.5×10-3
やはり、各種の仮定が前提の梁要素や板要素では、かなり硬い結果が出ていたようだ。ちなみに、ソリッドモデル縦断面で主応力図を描くと図2のようになり、スパン中央部ではかろうじて梁構造で現れる応力分布を示しているが、その位置を離れると、もはや梁の応力場とは言えない状況が見て取れる。 ここの話題に関しては、「有限要素法よもやま話」第101話を参照されたし。
梁力学にどっぷり浸った構造設計者の中には、連続体を扱うFEM解析を実施した場合、その結果を梁理論結果と比較して満足する結果を得ると安心してしまう人たちをときおり見かける。それは、机上の数値解析の世界内の話であって、現実の問題をシミレーションするモデリングが妥当かどうかは別問題であること、肝に銘じてほしい。

2026年1月記
