FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第20話 係数1/2

第7話“ベクトルとテンソル”では、弾性学における歪はテンソル量であり、座標変換においてはテンソルの定義そのもので変換すると言った。その際は細かい話はできなかったので避けていたが、実は、少し補足説明しなければいけないことがある。

応用力学に携わる人たちが日常接する歪成分は(これを工学成分という)、テンソル成分と完全に一致しているわけではなく、せん断歪の扱いに注意を要するのである。

図20‒1 材料主軸と要素座標系

図20‒1 材料主軸と要素座標系

例えば、直交異方性材料の板要素が3次元空間にあるとする。このとき、まず、応力-歪関係、すなわち、構成マトリックスは材料主軸(s-n)で定義される。要素剛性マトリックスを作成する際、この構成マトリックスは要素単位で定義された要素座標系(x-y)でのマトリックスに変換する必要がある。

このとき、せん断歪を工学成分のままで変換してしまうと結果に狂いが生じることになる。歪はあくまでもテンソルなので、工学的せん断歪を一旦、テンソル成分に変えてから座標変換する必要がある。さらに言えば、変換後のせん断歪を工学歪に逆変換する必要もある。

工学成分とテンソル成分の変換と言ったので難しく考えるかもしれないが、実際には2を掛けたり、2で割ったりするだけである。この辺の事情は図20-2にあるように工学せん断歪に対してテンソル成分は1/2の係数がかかった形で定義されていることに由来する。

図20‒2 せん断歪みの定義

図20‒2 せん断歪みの定義

弾性学における歪と応力は双子の兄弟のようにいつもペアで登場し、主応力、主歪の計算にいたるまで同様の振る舞いをするが、座標変換における1/2の違いは際立った特徴である。

この違いを忘れていても、有限要素法プログラムのユーザは別に表立った被害を蒙らないが、開発側の人たちが忘れると大問題となる。何を隠そう、筆者も若い頃、主歪の計算で痛い目にあった経験がある。そうそう、主歪の計算も座標変換に絡むので1/2の注意はもちろん必要ですぞ。

2003年5月記

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