FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第11話 サン-ヴナンの原理

前の話の中に出てきた、サン-ヴナンの原理というのは、厳密に数学的に証明されている原理ではなく、経験則に基づいた原理である。

本原理は、力学的に等価な荷重条件であれば、荷重作用点近傍を除いて構造物の応力分布は変わらないことを言っている。言い換えれば、荷重条件の違いにより荷重作用点近傍は応力の乱れが生じるが、その乱れは荷重作用点から離れるにしたがって急激に減衰することを意味する。サン-ヴナンの原理の後ろ盾がなければ、われわれ応用力学の分野に携わる者たちは、構造物の応力解析にずいぶん窮屈な思いをせざる得なかったであろう。その意味で、大変ありがたい原理である。

例えば、図11-1のようなケースでは、荷重の作用位置によってその近傍の応力分布は変わってくる。でも、サン-ヴナンの原理により、われわれはこれらの応力はすぐに減衰して、大局的な梁応力の分布には影響しないことを知っている。だから、作用位置の違いを気にする必要はないのである。

図11‒1 載荷位置に関係する応力領域

図11‒1 載荷位置に関係する応力領域図

サン-ヴナン(Saint-Venant;仏1797-1886)という人はずいぶん数理弾性学に貢献した人である。数理弾性学の分野で貢献してきた彼の先輩たち、ナビエ(Navier;仏1785-1836)、コーシー(Cauchy;仏1789-1857)、グリーン(Green;英1793-1841)らは弾性学の基礎論や一般論を展開しただけで、技術者が切望する具体的な問題の解答を提供したわけではない。個別の応用問題で貢献したのがサン-ヴナンである。特に、棒構造の曲げとねじり問題の研究が有名で、ねじりなどは現在でも彼の名がついた理論が使用されているのは読者の皆さんもご存知だろう。

サン-ヴナンはフランスの有名なエコール・ポリテクニクを首席で卒業し、数学的才能は自他とも認めるところであったという。しかし、若い時の言動が原因で、しばらくは周りからの冷たい視線に耐える人生であったらしい。これが原因かどうか分からないが、科学界に貢献した割にはその人物像を紹介した伝記類は少ないという。

当時、弾性学に関係していた人物は数学者であったり物理学者であったりして、弾性論は研究の一こまというケースが多かった中で、サン-ヴナンは弟子のブシネスク(Boussinesq;仏1842-1929)ともども弾性学一筋の学者だったようである。サン-ヴナンの原理にもブシネスクの貢献がみられる。

なお、ついでに言っておくと、技術者が板のたわみ等の解析で使用する各種境界条件での級数解はレヴィ(Levy;仏1838-1910)という人が解析した結果を使うことが多い。チモシェンコの教科書などに掲載されているのもそうである。このレヴィもサン-ヴナンの弟子であった。

図11‒2 板のたわみ

図11‒2 板のたわみ

2001年7月 記

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