FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第78話 片持ち梁を話の肴にして・その1

今回から4回ほど、構造が非常にシンプルであるにもかかわらず-実際、ここでは片持ち梁を話の材料とする-工学部の学生さんたちが学ぶ初等材料力学の教科書では、ほとんど扱われない問題について考えてみる。もちろん非線形力学まで話を広げれば、そんな問題はいくらでもあるわけだが、ここでは、初等材料力学の範囲である微小変形理論をベースとした静力学の話である。

さて、初等材料力学が対象とするのは棒状構造物の構造力学であり(しかも通常は平面内の挙動が中心)、これを微分方程式の立場で言えば、1独立変数、1従属変数の微分方程式の境界値問題という一番簡単な問題に相当する。

独立変数は当然、棒軸方向の位置を表現する変数であり、従属変数を棒軸方向の変位に取れば、それはトラス材の力学を考えることになり、従属変数を棒軸直角方向の変位(すなわち、たわみ)に取れば、梁材の力学を考えることになるのは周知の知識である。

いかに簡単な微分方程式といっても境界条件が複雑となったり、構造形態が単純な棒構造から逸脱してくると、解式はやさしくはない。前者のケースがいわゆる不静定梁の問題であり、後者のケースがラーメン問題等になるわけである。標準的な材料力学の教科書の後半の章を飾るのが、これらの問題ではないだろうか。

事程左様に、一般の材料力学の教科書では、内容のレベルを上げる要因としては、境界条件や構造形態の違いを記述してあるだけであり、荷重については、あまり言及されていない-土木分野では、橋梁構造があるので、移動荷重という他分野にはない独特の荷重問題があるが、これは載荷位置が変化することで、最大応答を出すときの載荷位置に関心がある、という他との違いがあるだけであり、力学的には通常の載荷問題と本質的に違いはない。

しかし、荷重条件によっては、レベルが上がる静力学の問題もある。荷重が変形状態に依存する問題などがそうである。大変形を考える場合の水圧荷重や遠心力などがそうである-これらの外力は”従動力”と呼ばれている。従動力の問題は、通常の材料力学の範囲を超えた問題であり、本話のテーマでもない。このタイプの簡単な実例が”Ponding Problem”という水たまりのできる屋根をモデル化した梁解析例がチモシェンコ/ギア執筆の“材料力学本論”で紹介されていることだけを案内しておく。

少し余談をする。ここに出てきた“材料力学本論”はその淵源の著者があのチモシェンコであり、日本語版の発行が昭和50年というから、今となっては、古い書籍であり、もはや大学の図書館でしかお目にかからない代物かもしれない。しかし”Ponding Problem”でも分かる通り興味ある力学問題がところどころに散りばめられており、将来構造系方面に進むことを希望している学生さんには、力学問題を考察するためのセンスを磨く意味で、是非一読されることを筆者は推奨する。

 

閑話休題。やけに枕話が長くなったが、やっと今回のメインテーマである、荷重条件によっても材料力学のレベルが上がるという静力学の問題として、もう一例話す段となった。まず、下図をご覧いただきたい。一瞥して分かる通り、これは片持ち梁の先端に斜め方向から集中荷重が掛かっている問題である。

図1 斜め集中荷重が掛かる片持ち梁

図1 斜め集中荷重が掛かる片持ち梁

一見すると何でもない問題のようだが、さにあらず。今回の話題を執筆するに際して、筆者は、近くの大型書店に行き、土木、建築、機械の各工学書コーナーの棚に並んでいる、材料力学、構造力学と名の付いている書籍を片っ端から見てみた(たぶん40冊近くあったか)。そうしたら、たった1冊だけが、この問題の入り口を少しだけ言及していた。読者の皆さん、この問題が採り上げられない理由がお分かりかな。

静力学の問題の中には、変形前の構造形態で考えていては何も出てこなく、変形後の形状を考慮して初めて現れてくる力学問題がある。冒頭で微小変形理論のことをいったが、実は、材料力学には、微小変形理論を少し逸脱して考える場面もあるのだ。変形後の形状で考察するという、ほんのちょっとだけ非線形解析に踏み出して考えるのである。少しきざな言い方をすれば、それを“線形化有限変形理論”と言う。古典的座屈論がこの典型例である。座屈論の親戚のような存在が上図の問題である。まあ、話が少し込み入ってくる力学問題なので、多くの材料力学の教科書で扱っていないのでは、と推測する。

梁の長さLが比較的短く、曲げ剛性EIも比較的大きい梁材であれば、問題は単純である。荷重Fを鉛直成分P、水平成分Nの両者に分解して考えれば、前者のPによる問題は通常考えられている片持ち梁の問題であるし、後者のNの方は短柱あるいはトラス材の問題として解決する。

図2 変形後で考える片持ち梁の力学

図2 変形後で考える片持ち梁の力学

問題は、Lが長かったり、EIが小さめの、いわゆる柔な構造の場合である。荷重Fの作用点の位置、特にその水平成分Nの作用線を元の位置でなく、鉛直成分Pによるたわみ位置で認識する必要があるからである。すなわち、片持ち梁の任意点で考える曲げモーメントで、鉛直荷重Pによる通常のそれに加えて、水平荷重Nによる付加モーメントを考える必要がある(上図参照)。こういう梁の力学問題は、“Beam-Column理論”と呼ばれている。Beam-Column理論では、座屈理論と同じく、変形後の形状で載荷状態を考える。しかし、これも座屈理論同様、大きなたわみを考えるのでなく、ほんの少しだけの変形状態を想定するのである。先の材料力学本論(チモシェンコ/ギア著)でも、座屈を扱った章で、この片持ち梁モデルに近い問題が記述されている。

ところで、この力学問題の表現式はどうなるかというと、開始はやはり有名過ぎる次の梁の曲げ変形の基本方程式である。なお、記号および正負の符号の意味は、標準材料力学の教科書に載っていることなので、ここでは改めて記述はしない。また、以下の式では上図での記号を採用している。

78-01

鉛直荷重Pだけが載荷する片持ち梁であれば、上式の曲げモーメントM -P(L-x)を代入するだけで事足りる。しかし、水平荷重Nの存在が、-N(δ-v)の追加曲げモーメントを生じさせる。すなわち、次式が基本微分方程式となるわけである。

78-02

式(2)を2階定数係数微分方程式らしく整理してみると、

78-03

この式の右辺をゼロとした同次方程式の形は、振動問題の自由振動の方程式と同型なので、一般解の方はすぐ想像がつくのではないだろうか。任意点のたわみの式は、少し煩雑な式となるので、ここでは、一番関心ある梁先端部の最大たわみを表す式だけを記しておく。この誘導方法が気になる方は最後に付録として添付しておくので、そちらをご覧いただきたい。

78-04

上式を見るにつけ、材料力学の教科書によく出ている片持ち梁のたわみ式には、似ても似つかわない式になることを思い知らされる。

 

さて、数理的な話だと、ここで終わってしまうのだが、構造設計の実務的力学に範囲を絞ってみると、面白いことが分かってくるので、次にそれらに話を進める。

そもそも、式(4)にある無次元量kLの値は、実際上1より小さくなることがほとんどである。読者諸氏も、一度、標準的な梁部材の諸元の値を想定されてみると、その事実が確認できると思う。そして、その場合、まず判明することは、式(4)の括弧内第2項が全く結果に寄与しない存在であることだ。この理由は次の通りである。関数 tanx は下式のように級数展開できる。

78-05

この式のxがkLに相当し、かつその値が1より小さい場合、右辺第4項以降を無視し、第3項までを採用した正接式を式(4)右辺に代入してみる。すると、括弧内第2項が正接式第1項と打ち消し合ってしまうことがすぐ理解できる。結局、式(4)は次の通りとなる。

78-06

式(6)の第1項をよくよくみつめると、Nが相殺されて、先端に鉛直集中荷重が載った片持ち梁の先端部のたわみ式と一致していることが分かってくる。したがって、第2項が軸力Nの存在による付加たわみとなっているわけである。

ここで、思考実験をしてみる。荷重パラメータが二つあるのも煩わしいので、図1で荷重方向を示すθを45度の場合を考えてみる。式(6)の第2項の付加たわみが、第1項が表す通常の片持ち梁のたわみの一体どの程度なのかを示す指標として、ε=第2項/第1項を定義してみる。すると、

78-07

となる。

一方、鉛直荷重Pによる通常の片持ち梁先端のたわみを、梁スパン長Lに対する比率としてαを定義する。すなわち、

78-08

となり、この式より

78-09

となる。最後の等式は、θ=45度としているからである。式(7)と 式(9)を組み合わせると、記号E,I,Lがきれいに消えて、結局、次の通りεとαの間に簡潔明瞭な関係式が出てくる。

78-010

式(10)が意味するところは、「軸力Nによる付加たわみの付加率は、通常の片持ち梁として求めた先端たわみの対スパン長の比率と同程度である」ということである。たわみ比率αが1/10であれば、1割強のたわみが付加され、1/100であれば、1%強のたわみが付加されるわけである。

しかし、念を押しておくと、大きなたわみで上の式を考えてはいけない。大たわみの問題では、水平方向の変位も当然出てくるので、これについて、Beam-Column理論は何も答えてくれない。そもそも、スタートとした式(1)の左辺にある曲率を表す式が、たわみが微小であることを前提としていることを思い出してほしい。

最後に、次回の話へのつなぎもあって、有限要素法(FEM)プログラムで使用されている梁要素について少し言及しておく。フレーム構造のFEM解析経験者は、すでにお気づきだろうが、標準的なFEMプログラムでは、Beam-Column理論が使われることはないだろう。だいいち、採用しようにも線形の剛性マトリックス内に式(6)のような力の連成関係式を組み込むことが障壁になる。しかも、上では片持ち梁専用の式だったが、他のタイプの梁では式がまた変わってくる。これは、全ての処理を統一的に扱おうとするFEMプログラムのもっとも嫌うところである。それで、FEMの梁要素では、軸力による棒力学は短柱の理論を使い、曲げの力学とは分離独立して考えている。この扱いで不充分な場合、大変形解析という高度な手段が別途用意されている。これは、幾何学的に非線形な問題となる。

一般によく利用されるフレーム解析では、斜め荷重がある場合、荷重のインプット段階でユーザーが鉛直/水平成分にベクトル分解して指定するのもよいだろうし、FEMソルバー側にその処理を任せることが出来るのであればそれに依存するのもいいだろう。

 

付録. 式(3)の微分方程式の解法

従属変数をyと改めて、式(3)を再記すると、

78-a1

本文でも言ったように、上式の同次微分方程式は、自由振動の振動方程式と同型なので、その一般解は定番の次の式となる。

78-a2

そして、式(A1)右辺が多項式であるので、特解は同次数のやはり多項式となることが証明されている。そこで、 y=a1x+a2と仮定して、式(A1)に代入してみて、左右両辺の係数比較してみると、a1a2 が次の通りとなることが分かる。

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よって、微分方程式の解は一般解と特解を重ねて、下式となる。

78-a4

未定係数c1c2は片持ち梁の境界条件である、y=y’=0(x=0) から決定される。その誘導は省くとして、結果を式(A4)に代入すると、結局、次の式となる。

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一見、解決したように見えるが、まだδが存在している。これは、最初に梁先端のたわみ量として仮定した変数であるから、式(A5)で、右辺でx=Lを代入し、左辺でy=δと代入してみると、本文の式(4)に相当するδを表す最終結果の式が出てくることになる。

78-a0

2012年9月記

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