FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第47話 工学部の新入生諸君

新緑の候も過ぎて、今年(2007)も蒸し暑い夏を迎えようとしています。この時期にもなると、大学の新入生さんたちもさまざまな感想を持ちだしているのではと想像します。

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目的意識なく工学部などに飛び込んだ人は「えらい所にきてしまった」と臍をかんでいるのではないでしょうか。また、ちょっと予想していたのとは違って面食らった人もいるでしょうか。

以前、日本のバブル期に工学部を卒業した学生の中には、派手な金儲けに釣られて縁もゆかりもない金融方面の企業に流れた現象がありました。彼らには、こつこつと地道に働くエンジニアの世界はばからしく映ったのでしょう。

今また、IT 成金という言葉がありますね。もし、自分が仕事の面白みよりも金儲けの面白みに関心が強い人間だと思っている人がいたら、即刻、進路変更することをお勧めします。

他の理数系分野も同じでしょうが、工学部という所は実験があったり、数学、物理を基礎学問とするところから他の学部に比べると勉強する時間、いやさせられる時間が多いと思いますよ。映画で見るような青春を謳歌する学園生活には程遠いです(筆者の時代では学生運動にあけくれたという猛者もいましたが)。4年間そんな苦労までして進路変更するというのは、ばかばかしい限りです。工学分野に全く興味を持つことができなければ早めに進路変更することです。

まあ、人生は金だけではない、仕事に生きがいを感じるというエンジニア予備軍も多くいることでしょう。以下はそんな学生さんたちに贈るささやかなコメントです。

何年か前、ある大学工学部の研究室で学生相手に談話を頼まれた時のことです。聞き手は4年生、院生あわせて数十人いました。筆者が昔、読んで面白かった岩波新書の本数冊を紹介したところ、その場の学生さん全員の顔が、岩波新書など読んだことがないという表情をしていました。ちょっとがっかりでした。その大学が世間では一流大学といわれている所だっただけに余計にショックが大きかったことを覚えています。

岩波書店は理数系分野に限っても、さすがは岩波だと感心する本を何冊も出しています。その中でも、工学部の学生から社会でのエンジニアへと飛び立つ際の工学的教養といったものを身に付ける教養書として岩波新書がお勧めです。筆者の先輩たちの世代では、岩波新書を何冊読んだかを競ったものだという話を聞いたこともあります。

ただ、岩波新書を読むのはある程度、工学リテラシーといったものを身に付けた学部の4年生か院生の時期が最適だと思います。新入生諸君が読むにはちょっと時期尚早かと筆者は感想を持っています。

早すぎるといっても、読書する癖だけは今から身に付けておいた方がいいですよ。受験勉強でたぶん、ほとんど教養書など読む時間などなかった高校生活だったでしょうから、大学生活では早めに読書癖をつけましょう。本を読まない最高学府の学生ではお粗末過ぎますね。

私事で恐縮しますが、ちょっと筆者の読書歴を紹介してみます。今では、毎週本屋に足を運ぶ筆者なのですが、高校を出るまでは実に本を読まない若造でした。参考書以外で読んだことのある本といえば、たったの2冊でした。その2冊、今でも覚えていますよ。中学2年生で読んだ“アンネの日記”と高校1年生で読んだ“しろばんば(井上靖著)”です。それも国語の授業で感想文を求められた学校からの強制読書でした。

そんな、本を読まない人間が一体どうして読書家になってしまったのかといえば、それは大阪市内のある図書館で司馬遼太郎さんの“竜馬がゆく”を手にしたのがきっかけでした。最高の青春文学を19歳で読んだという筆者にとっては実にタイムリーな出来事でした。

後で知ったことなのですが、この本は実に多くの人たちに影響を与えていますね。筆者と同世代の歌手・タレントの武田鉄矢氏などもその一人で、読み終えた時の強烈な印象を方々で語っていますね。読書の楽しみ、いや人生の楽しみを教えてくれた司馬さんには感謝、感謝です。

読書の旨みを覚えてからというものは、元々好きだった歴史分野は言うに及ばず、やはり専攻分野に関係する科学、数学関係へと手広く本を読み漁るようになったという昔話でした。

閑話休題。サイエンス分野の教養書といえば、講談社が出している新書版の本でブルーバックスというのがありますね。有名なシリーズ本だから、新入生の皆さんもたぶん名前ぐらいはご存知でしょう。このシリーズ本はたしか、筆者の高校入学時期の昭和40年前後に創刊されたと記憶しています。筆者はこのシリーズ本にも随分とご厄介になっており、その数は優に100冊を超えているかと思います。筆者にとってのその記念すべき第1号は“マックスウェルの悪魔”ではなかったかと思います。

しかし、学生時代から本が多くなりがちで、その保管場所に困り果て、その都度、古書店に本を処分しに行くのですが、その際にブルーバックスの何冊かともお別れでした。今では、残しておけばと後悔している次第です。

ブルーバックスはサイエンス分野の啓蒙書なので、大学新入生さんたちも気楽に読めるはずです。工学の分野を仕事とするには、やはりそれを面白いと感ずることが第一歩だと思います。月並みな言い方ですが、興味、関心があってこその勉学邁進でしょう。科学、工学の各方面に興味を持たせてくれる啓蒙書がブルーバックスです。

大学卒業時になって、1冊のブルーバックスも読んでいないという人がいたら、進路選択を誤ったと覚悟すべきですよ。

2007年6月記

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