FEMINGWAY 〜有限要素法解析など構造設計にまつわる数理エッセイ〜

第23話 嫌われた異星人

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平成15年(2003)も残りひと月となりました。今年、95歳の高齢でひっそりと亡くなった高名な一人の物理学者がいます。“水爆の父”といわれたエドワード・テラー(Teller, Edward;牙1908-2003)です。世間に科学者の罪と責任を考えさせた物理学者の一人としては、控えめすぎるほどの新聞の訃報記事でした。

テラーは幾多の天才達を生み出し、異星人たちとまでいわれたハンガリー出身のユダヤ系科学者の一人です(第18話参照)。他の異星人同様、ナチスの暴圧から逃れるためアメリカに亡命しています。渡米当初は星、太陽のエネルギーを研究し、やがて熱核融合の問題に没頭することになります。これが、後年の水素爆弾の開発につながり、彼の生涯のテーマとなるわけであります。

テラーはもう一人の異星人、ノイマンと同じくアメリカが核兵器を持つことで世界平和が保てるという考えを持つ超タカ派の一人でした。特にソ連が原爆を開発した後は、異常なほど水爆開発に執着しました。 昔、“博士の異常な愛情”という映画がありましたが、この中に出てくるストレンジラブ博士のようでもあります(もっとも、映画のモデルはノイマンだといわれていますが)。実はこの映画、正式なタイトルは次のように文言が続いているそうです。「または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」

テラーと言えば、避けては通れない話があります。マッカーシズム(いわゆる赤狩り)という時代の犠牲になったオッペンハイマーの事件のことです。有名なマンハッタン計画の中心人物であり、ロスアラモス研究所の所長まで務めたオッペンハイマーは、原爆開発の推進派であったにもかかわらず水爆開発には反対していました。これが一因で彼はソ連のスパイだとでっち上げられます。その聴聞会の席上、テラーは水爆開発反対の恨みからオッペンハイマーにとって不利な証言をしてしまいます。この一撃で、以後、オッペンハイマーは全ての公職から追放されてしまうのですが、この事件以後、同僚の物理学者たちはテラーを避けたといわれています。

日本学術会議会長でもあった物理学者の伏見康治さんのエッセイ本、“アラジンの灯は消えたか?(日本評論社)”の中に“エドワード・テラーの七つの大罪”といういささか衝撃的なタイトルのものがあります。

この中でも、ある国際会議でテラーを見かけたが、伏見さんは彼と握手するのを避けたという話が出てきます。

ところで、伏見さんのこのエッセイ、周辺の話が長すぎて、さあ、これから本題という所で終わり、後は未稿となっています。テラーの七つの罪を聞けなくて誠に残念です1

2003年12月記

  1. 2008年の5月、伏見さんの訃報の記事を新聞紙上で発見しました。これで、永遠に“七つの大罪”を聞けなくなりました。 (2008年10月追記) []

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